トキメキとオトモダチ





2時間目の終わった休憩時間。

教室の入り口から『ゴン』と中々いい音が聞こえた。

そちらを見ると額を擦っている花形くん。

笑っちゃいけないと思いつつも、口元は横に広がりそうで。それを隠すために手で覆った。

「アイツ、いつもあんなの?」

私の机の上のスナック菓子を摘まみながら藤真が聞く。

「3回に1回くらいは」

私が答えると

「...良いペースだなぁ」

呆れた感情を含んだ声で溜息混じりにそう言う。

「ときめくよ」

私が答えると「この物好きめ」と笑われる。


「ああ、なんだ。藤真、来てたのか」

「おう。リーダーのノート貸してくれ」

指についた塩を舐めながら藤真がそう言う。

それは果たして人のノートを借りる態度だろうか?

持っていたウェットティッシュを差し出して指を拭くように促すと「さんきゅー」と言って改めて指を拭く。

に借りれば良いだろう?」

溜息交じりに花形くんが言うと

のノート?俺、ノートを借りてまで先生に怒られたくない」

『はあ、ヤレヤレ』といった感じに首を左右に緩く振りながら藤真が言う。

藤真の言い方にカチンときたけど、確かにそれは正論だ。心の中で深く頷く。

寧ろ、だからこそ私は花形くんのノートを写させてもらう気満々なのだ。

花形くんはちらりと私に視線を向ける。

つい、と私が視線を外すと花形くんは溜息を吐いて私の後ろの彼の机から一冊のノートを取り出した。

「次の休憩時間には返せよ」

「急ぐのか?4時間目だろう?」

ペラペラとノートを捲りながら藤真が花形くんに聞く。

が写すらしいから」

うわ、バレバレ...

藤真に視線を向けると

「バレてんぞ?」

と笑いながら言われてしまった。

「いつもご迷惑をお掛けします」

深々と頭を下げた。

花形くんは苦笑いを浮かべて「いいよ、もう慣れた」とまで言う。

あー、慣れさせてしまったのですか、私。

それはそれで問題だなぁ、となんとなくそう思った。

思ったけど、自力で英語のノートなど作る気にもならず、やはり花形くんに頼ってしまう。

「花形くんって頼り甲斐が有るよね?」

藤真と違って、という言葉を飲んでそう言うと

「一応、『ありがとう』って言っておこうか?」

と聞き返された。

何が可笑しいのか、藤真はさっきから笑いっぱなしだ。

「早く教室に戻れば?」

私が言うと

「悪い悪い。危うく馬に蹴られてしまうところだったな」

そう言って立ち上がる藤真にちょっとムカついて馬の代わりに私が蹴ってやった。

「乱暴者め」

少し顔を顰めて藤真が言う。

「馬に蹴られるよりは軽症だよ」

藤真は軽く睨んで

「じゃあ、4時間目の前に返しに来るわ」

と花形くんに告げて教室を後にした。


コノヤロ...

そう思って藤真の出て行った教室のドアを睨んでいると

「本当に仲が良いな」

と花形くんに笑われた。

今の会話で何処がどう仲が良いと表現できる要素があったのか分からない。

聞いてみると

「お互い遠慮がないじゃないか」

と言われて納得する。

というか、藤真にする遠慮がどこにある!?

「あ、でも。花形くんは今のままがいいよ」

教室のドアのところで3回に1回くらいおでこをぶつける貴方のままでいて!

「そうか?」と言って笑うかなと思っていたのに、花形くんは「うーん」と少し唸る。

「けど、それだといつまでもとはこのままの距離だしな」

そんなことを言われて咄嗟に返せなかった私は言葉を失う。

「え、いや。何?」

思わず聞き返すと

「折角2年もクラスが同じなんだから、な?」

だから、『な?』の先の言葉は?!

もどかしい!!と思っていても時間は流れてチャイムが鳴るのは当然で。

仕方なく、私は机の中から教科書とノートを取り出した。


次の休憩時間、藤真はムカつく事にノートを返しに来ないらしい。

だったら、その10分間。花形くんと腹を割って話してみるのも悪くない。

やってやろうじゃん!と人知れず気合を入れていると後ろの席から笑っている気配が漂ってきた。

その対象が何かは分からないけど、何となく自分に心当たりがあるから私が笑われているような気になる。

頼むから笑わないで...

これのお陰で私の決心はあっさり鈍ったのは言うまでもない。

まだまだ花形くんと私は適度な距離を保つオトモダチでいる事になりそうだ。










1周年おめでとうございますで『LINE CROSS』のhinataさんへ。

桜風
07.5.19(進呈)
07.6.5(掲載)


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