| 茹だるよう暑さ。 夏の大会でわたしは引退するはずだったけど、何故か冬の大会に向けて選手の皆とは別の忙しさで走り回っていた。 休憩中に皆が使ったボトルを洗っているとぬっと大きな人影が日を遮る。 「手伝うか、」 時々そう声を掛けてくれるのは花形。 「いいよ。マネージャーの仕事だから」 「そうか」 夏で引退すると言っていたわたしが残ってからと言うもの、何故か彼は気を遣う。 いや。元々そういう性格なんだろうけど... 「しっかし、暑いねー」 滴る汗を腕でぬぐって空を見上げる。 お盆が過ぎれば涼しくなると思ったのに、そんな気配はまだ来ない。 「そうだな。も忙しそうにしてるけど、ちゃんと水分摂ってるか?」 そんなことを聞く。 「大丈夫。何年、この笑っちゃうくらい大量の部員がいる男バスのマネしてると思ってるの?水分摂るタイミングとか。色々身に着けたんだから」 そう言うと花形は苦笑いを浮かべる。 「だから、花形も休憩中はちゃんと休憩しなよ。途中でへばったら俺様女王が煩いよ」 花形は小さく吹きだし、それを誤魔化すように口元に手を当てた。 「や、うん。そうだな」 「でしょ?」 自分で言っておいて何だけど。『俺様女王』ってどっちだよ!!って感じだ。 「じゃあ、オレ。戻るよ」 「うん、ありがとう」 花形は背を向けて数歩歩いて足を止め、 「ああ、そういえば。髪、切った?」 と声を掛けてきた。 正直驚いた。 2センチくらい。揃えるのにそれくらいだけ切っただけなのに。しかも、わたしは普段髪を結んでいるから長さなんてイマイチ分からないんじゃないのかな? 「うん。良く分かったね。もしかしたらばっさり切っちゃうかも」 そう言って笑うと 「まあ、これだけ暑いと大変なんだろうな。けど、勿体ないな」 「へ?」 「その。ポニーテールって言うんだっけ?が走るとそれが揺れるだろう?そういうの、なんだか可愛らしいって思ってたんだけどな」 ...へ? 目の前の花形はフッと笑う。 わたしは言葉を失い、取り敢えず何か言ったほうが良いのだろうかと悩む。 素直に「ありがとう」と言うべきか。それとも、何か冗談を言って返すか... 体育館の中から俺様女王が集合を掛けている声が聞こえた。 「ああ、休憩が終わるみたいだ」 そう言って花形は体育館へ足を進める。さっきより少しだけ足早に。 残されたわたしは思わず自分の頭に手を伸ばした。 結んだ髪の先をパサッと弾く。 これが揺れるのが良いらしい... 髪を洗うのは面倒くさいし、乾かすのだって時間が掛かる。 真夏は暑いし、髪を結ぶのも少し苦手だったりする。 けど、 「もうちょっとだけ、伸ばしてみようかな?」 自分の口から漏れた言葉に思わず笑ってしまう。 「ー!」 体育館からわたしの名前を呼ぶ声がした。 「はーい!」 返事をして体育館へ向かって走る。 パタパタと頭の後ろで結んだ髪が揺れる。 背中に当たるその感触がなんだかいつもと違ってくすぐったく感じた。 |
桜風
07.6.20
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