| 窓の外を見ると、見慣れた人物が歩いていた。 外は雨。 ああ、だからかと納得。 「神!」 教室の窓から声を掛けると彼は濡れない程度に傾けたビニール傘越しに見上げてきた。 「。あれ?もう夏休みだよ?」 いつも見上げている彼を見下ろしている今の構図がわたしにとって中々珍しい。 「知ってるよ。夏休みに、学校、しかも教室に居る人物は何のためにいるのか。君は知らないのかい?」 少し芝居ががって言ってみると 「補習、かな?」 と苦笑いを浮かべて神が言う。 「ザッツライト!」 深く頷きながらそう言うと 「そっか。まあ、頑張って勉学に励んでよ」 そう言って神は体育館へと向かう。 「神も部活頑張ってねー。優勝だよー!」 そう叫んでみるとちょっと足を止めて振り返り、小さく傘を掲げた。 そして、何事もなかったかのようにまた体育館へと向かっていく。 「そうだな、お前も頑張れ。寧ろ、お前が頑張れ」 低い声がして振り返ると既に本日の補習1教科目の物理の担当教師が教卓に手をついていた。 にこりと微笑んでいる先生。 わたしも引き攣った笑顔を返す。 「お前は本当に常連だな」 「が、頑張ります!!」 去年も思ったけど、今年も思うことになるとは。 夏休みって短いよ... 勿論、それは補習のお陰でね。 パソコンで打たれた無機質な文字とにらめっこをしているとガラリと教室のドアが開く。 げ、もう時間!? そう思って腕から外して机の上においていた腕時計で時間を確認すると、まだ先生が戻ってくると言っていた時間には早い。 今は本日の2教科目、数学の補習中だ。 顔を上げると 「あれ、神?」 部活の途中なのか、そういう格好の神が立っていた。 「もしかして、ひとり?」 教室の中を見渡しながら神がやってくる。 「ちょー優秀なのは、わたしだけだったりするのだ」 「へえ。じゃあ、今の補習はマンツーマン?」 「そう..そうなのよ。何が悲しくてあの先生と『教室で二人っきり』というロマンスが生まれても仕方のないシチュエーションを味わないといけないのかしらと心から思ってるのよ」 神は苦笑いを浮かべてわたしの隣の席の椅子を寄せて座る。 「って数学嫌いなの?」 「あのね?足し算・引き算・割り算・掛け算。それ以外何を求めるというの?!それが出来たら取り敢えず日常生活送れるんだよ?なに、この微分積分。わたし、今まで生活してきてこんな計算しようと思ったこと1度もナイです。要らないです」 「そう?でも、数学って答えがひとつだから分かりやすくて楽しいけどな」 神は首を傾げてそう言う。 確かに、答えがひとつしだけってのはすっきりしている。わたしだって答えを知りたい事象をそれなりに抱えているし。けど、それに関して言えば答えを知りたいような、知りたくないような... でも、それとこれとは別だ。 数学の存在意義を先生が説明してもやっぱりさっぱり納得できない。 「まあ、わたしが数学で許せるのは二次方程式までかな?」 ふぅん、と言いながら神はわたしの空白だらけの数学の課題を引き寄せた。 「コレいつまで?」 「聞いて驚け、あと10分」 本当に聞いて驚いたらしく神は大きな目を更に大きくして、そして、課題をもう一度見た。 「教えてあげるから。10分で済ませようよ」 持っていた課題を机の上に戻して、そして、教科書を捲る。 「いいよ、先生に大人しく怒られるから。神は練習あるんでしょ?戻ったほうが良くない?リッキー厳しいんでしょ?」 「後は自主練だから大丈夫。ほら、シャーペン持って。あと、監督を『リッキー』って呼ぶのやめてね。練習中に思い出して噴出しそうになるから」 神に促されて慌ててシャーペンを握る。 でもごめんなさい。逆に全然集中できません。 神ってばきれいな指をしてるんだよな。しかも、睫毛が長いし。色も白いよな... 「聞いてる?」 「全然」 神は盛大な溜息を吐いた。 「夏休み、要らないの?」 「取り敢えず今の倍は欲しいです」 「だったら、ほら。早く補習課題済ませないと。そしたら夏休みでしょ?」 「でも、夏休みったってやる事ないし。両親の実家も神奈川だから、旅行行かないし」 ちょっと我侭を言ってみる。 「じゃあ、一緒に出かけよう」 「は!?」 神の言葉に思わず声が上がる。 「俺の部活のない日になるけど、一緒に遊びに出かけよう。練習試合もいくつか組んであるみたいだから、それも見に来たら良いよ」 「え、えーと。それはどういう...」 わたしが詳しい解説を求めると神はにこりと微笑んで 「ね?答えがひとつだけの数学って結構楽でしょ?」 そんなことを言う。 ええ、ホント。 神が何でそんなことを言い出したのか分からないし、選択肢が複数あるためにどれが答えか分からない。 取り敢えず、一番楽観的で嬉しいものを選択してみた。 「でも、。たぶんが選んだ答えが正解だから」 にこりと微笑む神の顔がほんのり赤く染まっているように見えて。 だから、わたしの答えが合っていると少しだけ強く思ってしまう。 わたしが聞いてみようと口を開けるとガラリと教室のドアが開いた。 「おう、神。どうした」 先生が神に声を掛けてきてわたしは言葉を飲んだ。 「忘れ物です」 先生にそう答えた神は 「じゃあ、答え合わせはまた今度ね」 と囁いて椅子を元に戻して教室を出た。 わたしの空白だらけの課題を見て先生は小言を始める。 けど、この微分積分は答えがひとつしかないらしい。 だったら、今わたしが抱えている問題よりもずっと簡単なはずだ。 カチカチとシャーペンの芯を出しながら教科書を捲る。 今度神と答え合わせをするとき、わたしと彼の答えが合っていますように... |
相互ありがとうございますで『LINE CROSS』のhinataさんへ。
桜風
07.4.18
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