| 「よー!姉ちゃん!」 たったかと足音をさせながらノブが背後から声をかけてきた。 あたしは自転車をこぎながらちらりと振り返る。 衣替えは6月からで、夏服のノブはシャツをパンツに入れずにをだらしなく着ている。 たしか、海南はポロシャツがあるんだから、パンツに入れたくなかったらポロシャツを着たら良いのに... ノブは近所のガキンチョだ。家がお隣同士というわけではなく、あたしとノブの家の間には3軒ほど家がある。 彼は今年から高校生で、あたしは今年から大学生。3歳の年の差だが、物凄く面倒を見た記憶がある。 「ノブ。あんたも朝から元気ね」 呆れながら言うと「おう!」と得意げに胸をそらせる。 特に褒めたつもりはないのに... 「姉ちゃん、今日は早いんだな。大学生って寝坊できるって聞いたのに」 「今日は特別。用事があるからよ。あたしだってこんな朝早く起きたくないわよ。あ、今日は午後から雨降るって言ってたよ」 あたしは折り畳み傘をこのバッグの中に入れている。 「へー...」とノブは感心したように相槌を打っていた。 「置き傘、あるの?」 「ない。けど、何とかなるって!」 ノブは昔から行き当たりばったりで、今の『何とかなるって』というのは昔から良く聞くセリフだ。 しかし、ノブは確かに大抵のことは何とかなった。 一番驚いた『何とかなる』は高校受験だ。 成績を嘆き、ノブの両親が「どうか勉強を見てほしい」といってきたからあたしは仕方なくノブの受験勉強を見ることになった。 と、言っても手遅れだとは思っていたけど... あれだけ必死にお願いされたら無碍には断れない。何より、あたしは早々に推薦で大学進学をすると決めていたので時間だけはあったのだ。 おばさんたちに頼まれた当時、これは公言できないのだが、確定はしていなかったが指定校推薦をもらえるという内諾があった。 一応、その指定校推薦をもらえるようにあたしは高校に入ってからそれなりに勉強と部活動を頑張ったのだから。 しかし、両親の心配をよそに当の本人はけろりとしていた。 「高校、いけないかもよ?いいの??」 「なぁに言ってんだよ、姉ちゃん。オレはスーパールーキーでバスケの強いところ、そうだな..県内ナンバーワンの海南大付属のバスケ部から推薦依頼が来るに決まってるんだから。何とかなるって!」 何、夢を見ているんだろうと思っていた。 しかし、それは本当に実現した。 まあ、中学の予選でノブはとても活躍したと聞いた。 私立は、特に部活動を重視しているところはとりあえず有望なのを連れて来て、その後ふるいにかけていくとか言うのは聞いたことがあるけど。 そのふるいにかけられる対象にノブが入るなんて思っていなかった。 あたしには、ノブはガキンチョのままだから。 けど、よくよく考えたらノブはいつの間にか『ヒデヨシ』に引きずられなくなった。 ヒデヨシというのはノブの家で飼っている犬の名前だ。 ちなみに、彼の家で飼っている亀は『イエヤス』というらしい。 では、次に何か飼う時にはどんな名前になるのだろうか。それが実は少し楽しみだったりする。 それはともかく。 中学にあがるときに両親にお願いしてノブは子犬を買ってもらった。 それは大型犬で、あっという間に成犬となり、ノブを引きずりながらご近所を駆けずり回るようになった。 しかし、それも長くは続かず、背も伸びて体格がだんだん逞しくなっていったノブはヒデヨシの暴走を止められる男の子になっていた。 たしか、ヒデヨシに引きずられているときも「何とかなるって」って言ってたな... 「そういえば、ノブ」 「何だよ」 「スタメンなんだってね。海南で1年でスタメンって凄いんでしょ?」 「おう!ま、オレは今年の神奈川ナンバーワンルーキー様だからな!!」 「凄いねぇ」 素直にそう思っている。 「次は全国大会?」 「おう。広島であるんだぜ」 「優勝できるかな?」 どうせ「当然!大丈夫、何とかなるって」とか言うんだろう。 「...どう、かな?もちろん、優勝狙うけど、全国はやっぱりすげー奴がいっぱいいるだろうし。けど、負ける気はないかんな!!」 ノブの返事にあれ?と首を傾げる。 意外、だった。 また自信満々に「何とかなるって」と根拠のない事を言うのだと思っていた。 「姉ちゃん?」 ひょいと腰をかがめて顔を覗き込んでくる。 「気分悪いのか?」 「え?あー、ううん。なんでもない」 「そうだ!今のうちに聞いとくな。広島の土産、何が良い?」 「あなご」 「あなごって、確かうなぎのことだよな。いいぜー。にゅるにゅるをもって帰ってやるよ!」 あー、やっぱり相変わらずだ。 「無理はしないように」 「大丈夫、何とかなるって!」 ニカッと笑ってノブは駅への道を駆けていった。 |
4周年おめでとうございます、で秋月さんへ
桜風
09.6.27
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