憧れの人





部活は午後から。

少し早めに家を出てスポーツ用品店へと向かった。

店内に入ろうとするとドアが開いてそこには背の高い人がいた。

バスケかな?

すぐにバスケが浮かんだのはわたしがバスケ部だから。と言ってもマネージャー。

その人を見上げてわたしは固まった。

だってその人は

「流川くん!?」

わたしの憧れの人だったから。

「ん?」と流川くんがわたしを見下ろす。

「あ、ごめんなさい」

「いや...」

流川くんはそう言って頭の上に何だか『?』を浮かべている表情だった。

可笑しくて噴出しそうになるのを堪える。

「中学が一緒だったの。富中でしょ?」

「ああ...」

「昔からバスケ部で凄く上手で。流川くんは気付いてないかもしれないけど、貴方に憧れる子は少なくなかったのよ」

わたしもその一人、という言葉は飲んだ。

「ふーん」と言って流川くんは適当に相槌を打つ。

「これから部活?」

流川くんは何も言わずに頷いた。

「そっか。じゃあ、頑張って。インターハイも」

そう言うと

「何で知ってんだ?」

と聞き返す。

「だって、わたしは今男子バスケ部のマネージャーしてるんだもん。神奈川のどこの学校がインターハイに行くかなんて知らないと怒られちゃうよ」

笑いながらそう言うと「そうか」と納得のご様子。

「じゃあ」と言って流川くんは練習に向かって行った。


「知り合いだったんだ?」

不意に声を掛けられて小さく声が上がる。

振り返ればそこには人の良さそうな笑顔を向けている仙道さん。

「そうです。中学が一緒だったんですよ」

わたしが答えると「ふーん」と仙道さんは流川くんが向かって行った方角を目を眇めて見た。

「好きなの?」

「憧れです」

そういうと「憧れ、ねぇ...」と呟く。

「好きとは違うの?」

「別物ですよ?」

「そういうもんかな?」

「少なくともわたしにとっては、ですけどね」

笑うと仙道さんは肩を竦めた。

「ところで、ちゃんはここに用があったの?」

「そうです。だから、仙道さんも付き合ってくださいね」

そう言ってにこりと笑って制服の裾を掴んだ。

「え?」

「そして、一緒に部活行きましょうね。今日は遅刻できませんよ?」

そう言うと仙道さんは天を仰いで「あちゃー」と声を漏らす。

「残念でしたね。今日は越野さんが大喜びです」

ちゃんは俺より越野の味方なんだ?」

拗ねたようにそう言う仙道さんが少しだけ可愛い。

「だって、越野さん。いつか胃潰瘍になるんじゃないかって思っちゃうくらいの苦労人ですよ?というか、真面目に練習してもらいたいってのが本音です。さあ、仙道さん。とっとと買い物を済ませて、張り切って練習に行きましょう!」

仙道さんの服の裾をグイッと引っ張って店内に入る。

一度、流川くんが消えていった方を見た。

当たり前だけど、彼の姿はもうなくて。少しだけ、寂しく思える。

陵南のマネージャーだから顔くらいは覚えてくれてたかなって淡い期待を持っていたんだけどな...

そんなことを期待していた自分に苦笑する。

「仙道さん」

名前を呼ぶと「んー?」とのんびりとした口調が返ってくる。

「冬は全国に行きましょう!打倒湘北、打倒海南、打倒全国です!」

そう言って見上げると仙道さんは困ったように笑い、

「何だか、ウチの部は田岡監督がどんどん増えてるな」

とぼやく。

何だかちょっと失礼だぞ?

そう思っていたら

「まあ、ちゃんが喜んでくれるみたいだから頑張るよ」

と言いながらわたしの頭に手を載せる。

その大きな手は優しく、そしてその重みはとても心地良かった。










桜風
07.5.31


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