約50センチの距離 6





 のバイトが上がり、2人で並んで駅に向かう。

街灯を背に受けて伸びた影の長さの差には苦笑した。

光の当たり具合が全くの背後からではないので、それが身長差というわけではないが、それにしたって大きな差があるのだ。

苦笑を漏らしたに「?」と花形が顔を覗き込んできた。

「あ、ううん。なんでもない」

慌ててが花形を見上げた。

「え、と。花形くん、練習大変?」

何とか話題を探す。はバスケの話を振ることにした。学部の話になってもさっぱりわからないだろうから。

「まあな。でも、高校の時も藤真が相当きついメニュー組んでたか、それと同じくらいかも」

「じゃあ、藤真くんに感謝?」

からかうようにが言うと、「どうだろうな」と花形が肩を竦めて苦笑しながら言う。

「では、レギュラー取りは?」

「まだ、だよ」

少しだけ悔しそうな表情を浮かべて花形が言う。

「あ、ごめん」

それを目にしたは謝罪した。彼の目標をからかった形になったのだ。

「ん?」

「言い方、悪かったかも」

「いいよ。まだだし。そうやってつついてくれる人がいるほうが焦っていいかも」

花形言う。


しばらく歩いていると、ガサリと後方で音がした。びくりと震えたが花形の腕をつかむ。

?」

「あ、ああ。うん。なんでもないよー」

パッと手を放してが言う。

先ほど腕をつかんでいた彼女の手が震えていた。

「何かあるよな」

確信していう花形に「何でもないって」とは返した。

「...実は、俺がのバイト先に行ったのは、の友達に話を聞いたからなんだ」

「え、ちょっと。誰のこと?」

眉間にしわを寄せてが言う。彼女にしてみれば余計なお世話だったのだろう。

「言わない。でも、来てよかったよ」

「なんで...」

が何か問題を抱えていることが分かったから」

「だから、何も問題なんて...」

反論するが花形の目を見て言葉を失った。

まっすぐにみられているその瞳は彼女を心配している。

「え、と...」


俯く

「誰かに付きまとわれているのか?」

と花形が核心を突くことを言った。

「え、あ...」

「だよな?さっきも、バイト中、結構外を気にしていたし、今のだって」

と花形が言う。

「...うん。なんか、そんな感じ。あ、でも自意識過剰なだけかもしれないし」

慌ててが言い訳をするが、花形はそれに同意しなかった。

「いつから?」

「...自転車を盗まれるちょっと前から」

「どれくらい?」

「2週間くらい前かも。実は、自転車、2台盗まれてて」

「は?」

花形が頓狂な声を上げた。

「警察には?!」

思わず語気を強めて問う。

「え、と。2台目だけ届けた..かな?」

びくりと震え、小さくなりながらが答えた。

...」

憤りを抑えるように、花形が唸る。

(俺が怯えさせてどうする...)

「あのな。自身も危ないって思っているんだろう?」

「はい...」

「他に思い当たることは?」

聞くと意外と出てきた。

「それ、親御さんには?」

「心配かけたくなくて...」

、悪いな。ちょっときつい言い方になるぞ」

一応、そう前置いて

「何かあった時の方が心配だろう。取り返しのつかないことになったらどうするんだ!そっちの方が大変だろうが!」

と叱った。

はその場で小さく蹲る。

...」

花形も膝を折ってその場にしゃがみ込む。

「迷惑、掛けないから」

「ちがう」

の言葉にいらっとしてその感情のまま言葉が漏れる。

「迷惑かけろ」

覗うようにが顔を上げた。

「迷惑、かけてくれ」

「...花形くん、マゾ?」

の言葉に頬を引き攣らせた花形は、彼女のこめかみに拳を当ててグリグリし始めた。

「その考え方、ちょっと藤真っぽいぞ」

「この反応、藤真くんっぽよ...いーたーいー。はーなーしーてー」

涙目になっていうの訴えを聞くことにした。

は、人よりも小さくて、でも、その分努力家なのは知っている」

花形が自分をズバッと「小さい」というのは珍しくて、は驚いたこともあって大人しく聞いていた。

「けど、体格的な話になったら不利なのは間違いない話だろう?」

「まあ、はい...」

は頷く。

「だから、俺を頼れよ」

「え、と?」

「俺は、を心配できるところにいたい。迷惑をかけられるところに立たせてくれ」

そう言って花形はの手を引いて立たせる。

「とりあえず、警察には親御さんに話してから。けど、明日には行くぞ」

「えー」

「『えー』じゃない」

ピシャッという花形には笑う。

「なんだよ」

「ううん、花形くんってば先生みたい」

くすくすと笑って彼女が言う。

「...それでいいよ、今は」

そう言いながら花形はの手を掴んだまま歩き出す。

「あの、手」

「不都合、あるなら離すけど...」

そう言った花形に「ない、かも」とはいう。

その返事に内心ほっとしながら花形は駅に向かって歩き出した。









桜風
13.8.21


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