| 強豪バスケ部は、かなり人気があるらしい。 それを聞いたのは先日友人からだった。 元々『人気のあるバスケ部』というものには慣れている。 あの、藤真の女子生徒からの人気は、いまだに翔陽高校七不思議の一つにエントリーすべきだと思っているくらいだ。 「そういえば、花形くんはいい人だったのにねぇ」 しかし、卒業式前日に高野たちが心残りにしていたことを思い出すと、やはり一概には言えないことかもしれない。 そして、先日レギュラーを獲ったらしい花形の人気が急上昇だとか。 「ふーん...」 ふーん、と思ってみたが、何とも落ち着かない。 自転車も復活していることだし、バイトの時間まで少し余裕があったから、バスケ部体育館に足を向けてみた。 久々に聞く黄色い声。 (大学生ってもっと大人で、落ち着いたものだと思っていた...) そう思って、はたと気づく。 自分だって大学生で、高校生だった時とどれだけ変わっているかと聞かれたら、成長した点が思いつかない。 そう言うものなのだろう。 そして、やはり人垣があるために、体育館の中を覗くことはできない。 仕方ない、とため息をついて、そして、耳に入った高い声に足を止める。 「透君」と誰か言っているのだ。 はゆっくりと振り返る。 非常に面白くない。 (なーにが、「透君」だ!) 心の中で毒づいて駐輪場に向かった。 イライラしている自分に余計イライラしているは、それでもそういう感情を押し殺してバイトに精を出した。 働いている間はきっとそういう雑念を振り払えると思った。 なのに... 「いらっしゃいませー」 何処か脱力した声を発してしまったのは仕方のないことだ。 店に入ってきたのは、花形だった。 「お席にご案内します」 そう言って禁煙席に案内した。 あの日以来、時々花形は部活後にこの店にやってくる。 自転車復活後は、送ってもらうことはないが、なんとなく駅までは一緒に帰っていた。 は、その行為を疑問に思っていなかった。 花形がの隣を歩くことが凄く自然に思えていた。この身長差で、だ。 今日も何を言うでもなく、バイトを上がる時間に花形は駐輪場の前に立っていた。 「花形くんって、身長いくつだったっけ?」 自転車を押しながらが問う。 「何だよ、突然だな。えーと、197かな?もうさすがに伸びそうもないよ」 苦笑して彼が言う。 約50センチ。50センチの距離があるのだ。 50センチと言えば、1メートルの半分。結構な距離だと思う。 「?」 「どうやってキスすんの」 「...?」 ポツリと呟いた彼女の声が耳に入り、花形は困惑しつつ彼女の名を呼ぶ。 「え、なに?」 「や。...キス?」 聞いてみた。 すると彼女は顔を真っ赤にして 「や、ほら。あの..花形くんって背が高いでしょ。女の子とキスするの、大変そうねって。中には私みたいなちょっとサイズ小さ目なのがいるんだし。うん。ごめん、変なこと言ったね。あはははー」 と動揺しつつも言い訳をする。 「...大変じゃないよ」 頭上からの花形の声があまりに真剣では顔を向けた。 「ほらな」 触れた唇の感触に思考が固まる。 支えていた自転車が手から離れて倒れかかった。 花形がそれを支え、スタンドで固定する。 「。俺が前に言ったこと、覚えてるか?」 「え、前って...」 「がストーカー被害に遭ってるときのことだよ。迷惑をかけられるところに立たせてくれって。心配をさせてくれって」 花形の言葉に、はぎこちなく頷いた。 「あれ、告白のつもりだったんだ。回りくどいからわかんなかったかもしれないけど」 「え、あの...」 「だから、もう1回言うな。俺はが好きだ」 まっすぐ目を見られて、逸らせなかった。 「私、ちっちゃいよ」 「その分努力家だろ?」 「えと...」 「首を縦に振るか、横に振るか。それだけでいいよ」 苦笑して花形が言う。 ゆっくりとが頷いた。 それを見て花形はほっと息を吐く。 「でも、あのね。ほんとに、ちっちゃいんだよ。私と花形くんの身長差、知ってる?だいたい、50センチなんだよ」 おずおずと見上げて言う。自分で何度もちっちゃいというのが多少傷つくが、それでも事実だ。 「問題ないだろう」 そう言ってまた花形が唇をふさいだ。 「キスはできる」 真っ赤になって俯くの頭を花形はぽんぽんと優しく叩く。 「さ、帰ろう」 「うん」 「花形くん」 「ん?」 「最近、おモテになると聞きました」 の言葉に苦笑した。 「確かに、声をかけられるようにはなったかな」 「ほんと?!」 「それなりに、な」 肩を竦めていう花形に「知らなかった」とは呆然と呟く。 「ま、高校の時は藤真が喜んで一手に引き受けてくれていたからな」 「あー、藤真くんってそんな感じだよね」 の感想に苦笑した花形は彼女の自転車を押し始める。 「腰が痛くなるよ」 「いいよ。こうしたいから」 そう言っての手を取った。 「は、片手で自転車押せないだろう」 「うん、ありがと」 「どういたしまして」 街灯に照らされた影の長さの差は約50センチ。ただ、それは何の問題にもならない距離なのだ。 少なくともこの2人の間では。 |
桜風
13.9.4
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