| 図書室で脚立が動いている。 一見そう見える光景は、実は現在の翔陽一背の低いが運んでいるだけだった。 普段、図書室をよく利用しているは図書委員に友人もいるし、図書室を管理している教師とも結構仲が良い。 が脚立を運んでいたら本を取ってくれるか、脚立を運ぶ手伝いをしてくれている。 しかし、今はその両方とも居ないため、自力でそれを運んでいる。 「本当に、此処でするのか?」 不意に図書室入り口から声が聞こえた。 この図書室で彼らを見る日が来るとは思わなかった。 少なくとも、はそう思っていた。 「お?脚立が歩いてる」 高野が呟く。 「いやー。図書室に七不思議ってつき物だと思うぞ?」 「お前ら、失礼だろう」 高野の言葉に藤真が続き、花形が溜息交じりに窘めた。 「てか、アレって何?」 こっそり高野が聞く。 「ん?知らないのか。この学校一のちびっ子、」 藤真が応える。 彼はと1年のときに同じクラスだった。 は1年のときから背は伸びていない。もう打ち止めなんだろうな、と藤真もの姿を目にするたびにそんな事を思っていた。本人はせめてあと5センチは欲しいとか言っているそうだ。 「おーい、」 藤真が手を振る。 一斉に藤真に図書室内の視線が集まった。 は額に手を当てて項垂れ、深く溜息をついた。 ちなみに、同じタイミングで花形も同じ事をしていた。 はとりあえず脚立をその場において人差し指を唇に当てる。此処は図書室だ。静かにして欲しい。 藤真はやっとそれに気づいて慌てて手で口を覆った。 振り返って残りのメンバーに「しー、」っと人差し指を当てて注意する。 残念なことに、大声を出したのは藤真だけだというのに... は気を取り直してまた脚立を運ぶ。 「取るよ。どの本だ?」 頭上から降ってくる声に顔を上げた。 「いいよ、あとちょっとだから」 が断ったが、声を掛けてきた花形は引き下がらない。 そして、気が付くと巨人に囲まれている自分に驚いた。翔陽バスケ部スタメン勢ぞろいで自分を囲っている。 「え、何...?」 「って、頭良いよな?」 藤真が聞く。 高野、永野、長谷川はに興味があるため、藤真についてきたようだ。彼らのいつもの視線の高さにはどうやらは入らないようだ。 それなりに校内で有名な彼女を知らないのがその証拠だろう。 「別に良くは無いよ」 「けど、成績は良いよな?」 「藤真くんよりは、まぁ...」 は躊躇いがちに肯定した。 「よし、決定だ」 そう言って藤真がの手を引く。 「え、何?!」 困惑しているの腕を引いて藤真は書架から離れようとしたが、それは花形が止める。 「藤真、は本を取ろうとしていたんだぞ」 言われて思い出す。 そういえば、体に不釣合いな脚立を先ほどからえっちらと運んでいた。 「何だよ、どの本だよ。お兄ちゃんが取ってやるぞ」 藤真のその一言には不機嫌になる。 「自分で取れるから良いよ。だから、そこ邪魔なの」 が不機嫌になったことに藤真は慌てる。此処での機嫌を損ねるわけにはいかない。 「や、ごめんて。良いから、取ってやるよ。若しくは、それを運んでやるから」 「何?物凄く気持ち悪いよ?」 真顔で目を見ては藤真に訴える。 藤真が親切だとむず痒い。 「うーん、いや。後でお願いって言うか...な?」 『な?』じゃない、と思いながらは溜息を吐いた。 このままだとどうせ本も取らせてもらえない。 仕方なく、自分が手にしたい本を取ってもらって、書架から離れてテーブルのあるスペースへと戻った。 「そういえば、バスケ部。部活は?」 スタメンが全員ここにいるのだ。不思議でしょうがない。 「...『試験週間』って知ってるか?」 藤真に真顔で聞かれて思い出した。 ああ、そういえば。今は試験週間だ。だから、今日の図書室はいつもよりも人が多いのだなと今更ながらに納得する。 「今思い出した。それで?」 「山張ってくれ。頼む!」 パン、と手を叩いて拝んでくる。 ちなみに、手を叩く音にまたもや図書室内の視線が集まった。いい加減、此処が図書室だということを頭に入れて行動して欲しい。 「ダメ」 短くきっぱり断られて藤真は立ち上がる。 「何で!?」 誰かの咳払いが聞こえた。 は項垂れて目の前に置いている自身の鞄を手にした。 「ちょっと、『藤真くんが図書館』という環境は良くないみたい。出よう」 促されてぞろぞろと学校一の長身集団は図書室を後にした。 |
桜風
08.6.18
ブラウザバックでお戻りください