文化祭 ―後編―






花形達はまだ回り足りなかったようで、はそれに付き合うことにした。

は何で帰るのをやめたんだ?」

花形が聞くと

「バスケ部の練習を見てみたいって思ったから」

が返す。

「練習?」

「試合は1回見たことがあるけど、練習って普段ギャラリーが多すぎて見たことないもの」

の言葉に何となく納得した。

一度、彼女は練習試合を見に来たことがあったがやっぱり応援に来ていたほかのギャラリーに潰されたり試合があまり見えなかったりでやや楽しめなかったところがあったようだった。

今回の練習は自主練だから正直、見に来る人も多くないだろうし、最初からいるんだったら人の壁に視界を遮られる心配は少ない。

しかし、ちょっと気になって聞いてみることにした。



と花形が声をかけるとは顔を上げる。

「なに?」

首の角度が少しだけきつそうだ。

「余計なお世話かと思うんだが。勉強とか大丈夫なのか?受験...」

花形は推薦の話が来ているので、そのどれかにしようと考えている。

一緒に回っている彼らも何処かしらの大学から声はかかっているようなのだ。

「大丈夫だよ」

そうか、と花形が思ったところで「たぶん」という声がかすかに聞こえた。

少し驚き、見下ろしてきた花形をは苦笑して見上げる。

「たまには現実逃避したいじゃない?」

なるほど、と納得した花形は「たまには必要だよな」と頷く。


部員数が多い翔陽高校バスケ部は、どのクラスにも後輩が居て、だからこそ、どうやら全部のクラスを回るつもりらしい。

「意外とマメなのね」

が呟くと

「惚れるなよ」

と藤真が言う。

「うん、ご忠告ありがとう」

さらっと流してが言い、「素直じゃないなー」と藤真が言う。

お前のその自信は何処から来る?!

藤真を除く全員が心の中でそんなツッコミを入れた。

全部のクラスを回り終わり、体育館へと移動する。

、先に鍵を開けていてくれるか?」

そう言って花形が鍵を渡す。

「窓は?」

「...いや、いいよ」

手は届くかもしれないが、窓の立て付けが悪いのか重いのだ。の背の高さだと踏ん張りが効かないから力が入らないだろうし、無理をしてまで開けてもらう必要はない。

しかし、花形の気遣いの先にあるものに気付いてしまったのか、はムキになり「開けておくね」と言ってバスケ部専用の体育館へと向かった。

「開くと思うか?」

永野が言う。

「...無理だろうな」

長谷川が返す。

自分たちでも結構力が要る作業で、1年の仕事にしているものだ。あの小さくて華奢なが窓を開けられるとは思えない。


着替え終わって体育館に入ると、が窓と格闘している。

あー、やっぱり...と彼らは心の中で呟いた。

ただし、藤真だけは馬鹿正直に

「お前にゃ無理だって。ちっこいし、その窓重いし」

と言って、ギャラリーに上がる。

そしての開けようとしている窓に手を掛けると

「先に他のを開けて。もしかしたら開くかもしれないでしょ」

と言われた。

「へいへい」

適当に返事をし、皆で手分けをして窓を開け、の元へと戻ってみた。

「どーだー?」

間延びした藤真の声が「どうせ無理だっただろう?」と言っている。

この窓以外に開けるものはなく、仕方なくは藤真に場所を譲った。

「よ!」という声と共に、藤真はグッと足に力を入れて腕の力で窓を開ける。

は背が低いから重心が下にありすぎて窓を開けるのに、踏ん張れないだろ?」

窓を開け終わった藤真が言った。

も、目の前で窓を開けられてやっと納得した。これは、確かに無理だった。力の要る作業だし、確かに自分の体格では適さないものだったようだ。藤真でこれだったのだから、納得するしかない。

「じゃ、かっこいい俺様の姿をしかと見届けろよ」

漫画とかだったら背景にキランという効果音が描かれそうな笑顔を浮かべた藤真がコートに降りていき、花形たちもそれに続く。

アップを済ませて練習が始まった。

「おっきいと迫力が違うよね...」

体育館に響き渡るボールの音や彼らの声。

彼らはバスケをしているときが一番生き生きすると思った。

あの藤真を凄いと思ってしまうのだから、これはもう、本当に凄いとしか言い様がない。


3時間近く汗だくになった彼らは後夜祭のために部活を切り上げた。

クラスの催しが早めに終わった部員達もいつの間にかその練習に参加しており、終わる頃には結構な人数になっていた。

後夜祭は校庭で行われる。

よくあるキャンプファイヤーを校庭の真ん中で焚いてそれを眺めるだとか、場合によっては、夏のうちに購入していた花火を持ち出す生徒もいる。

そこらへんは教師も煩く言わないらしい。お祭気分に水を差すような無粋な教師は居ないようだ。

そして、夏のうちから花火を用意している生徒の中に藤真が居た。

部室に置いていたらばれたときに没収されるから、と本日持ってきて教室においていたらしい。

それもそれで問題だったのではないかと思う。

はしないのか?」

キャンプファイヤーからも少し離れた場所に座って、ぎゃーぎゃーと後輩たちと騒いでいる藤真たちを眺めているに花形が声を掛けてくる。

彼女の隣に腰を下ろした。

「花形くんこそ」

「俺は..いいよ」

そう言って花形は苦笑した。

アレに混ざると色々と巻き込まれるのは毎年のことだから、いい加減学習した。

「今日は...」

が呟く。

「ん?」

「凄くいい気分転換になったわ。現実逃避、必要ね」

笑っていう

「たまには、な」

と花形は頷く。

「花形!!!」

「呼ばれたぞ?」

「なら、行かないと藤真くんは五月蝿そう」

肩をすくめてが言って立ち上がる。

「そうだな」

と頷いた花形も立ち上がり、藤真たちの元へと向かった。









桜風
11.10.12


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