| 高校3年の3学期ともなれば、わざわざ登校する人は少ない。 静かになった校舎の中を歩いていると、クラスメイトの姿があった。 「」 花形が声をかけると彼女は振り返る。 「あら、花形くん。久しぶり」 「図書館か?」 「ううん、実は教室のほうが人が少なくて快適。空調も効いてるからね。私立に通っててよかったわ」 彼女はそういって笑う。 「あと少しだな」 「やぁねー、プレッシャー掛けないでよ」 彼女は苦笑する。 「そういう意味で言ったんじゃないけどな」 花形は肩を竦めた。 「花形くんは、もう決まったの?」 「うん。まあ...今日はその報告もかねて」 「じゃあ、まずはおめでとうございます、だね」 そういって彼女は花形を見上げた。 「うん、ありがとう。も、無理するなよ」 「今は無理してナンボですよ。受験終わったら1週間は惰眠を貪るって決めてる」 「そうか」 元々3学期というものは、あっという間に過ぎる。 その中で、3月がない高校3年の3学期なんてとくにあっという間で、卒業式が3日後となってしまった。 「なんかやり残したことね?」 全員がバスケ推薦となった翔陽高校バスケ部3年はなんとなく部室に集まっていた。 「高野はあんの?」 「ねーよなー。あるとしたら、IH優勝くらい」 「それを言うな!」と皆に責められる。 「それくらいしかないんだから仕方ないだろ。なんか、こう..ねーの?」 「自分にないものを人に言うな」 呆れながら長谷川が言う。 至極まっとうな突っ込みである。 「んじゃー、カノジョがほしかった」 「お前、好きな奴いんの?」 永野が問うと 「いねぇ」 と返ってくる。 「なら、それもやり残したことっていうには、ちょっと変じゃね?」 「まー、そう思うけど」 「卒業式があるだろ。告白されっかもよ」 ニヤッと笑って藤真が言う。 「それ、おまえだろ」 非難がましく高野が言うと 「俺様は、もうおなかいっぱいだからいいよ」 と若干自慢を入れて彼が返す。 そして、花形を見る。 「お前は?」 「バスケのことしか浮かばないな。その時、ベストを尽くしたとは言え、やっぱり納得がいかない結果もあるからな」 苦笑していう。 「ま、そうなるよなー」 しみじみとしていると、「お、ちびっこ」と窓の外を見ていた高野が呟く。 「ん?」 「」 「あー、ちっせーな」 高野に乗っかるように窓の外を見た藤真が苦笑しながら彼女の名をつぶやく。 「は、進路決まったのか?」 藤真がそういって花形を見た。 「本命国立だといっていたからな、どうだろう。試験が終わったばかりじゃないのか?」 「うへー...卒業式で、まだ進路決まってねーの?」 「私立も受けるって言ってたから、4月から大学生なんだろうけどな」 「ふーん」と呟いた藤真が、「ー」と手を振る。 彼女はきょろきょろと周囲を見渡す。 「上」 そういってまた手を振る。 彼女は一瞬眩しそうに目を細め、手で翳を作ってこちらを確認して手を振る。 「わー、暇人」 「お前もだろうが」 藤真が笑う。 「なに、バスケ部そろって、センチメンタルに浸ってるのー?」 彼女の言葉に「高野がな」と藤真が返した。 「そうなんだ?」 「カノジョがほしかったんだと」 「ちょ、藤真!」 さらっと言いふらされて彼は抗議の声を上げる。 「卒業式があるじゃん。まだまだ高校生のうちにチャンスはあるよ」 笑って言う彼女に「ないない」と藤真が言う。 「お前が言うな、シャレになんねー」 高野が重ねて抗議した。 「は、どうして学校に来てるんだ?」 花形が声をかける。 「んと、センチメンタル?」 「よし、こっちこい」 「やーよ」 藤真の言葉に彼女は返す。 「あ?」 「だって、バスケ部と一緒にいたら、しんみりできないもん」 そういって彼女は笑い、「じゃあねー」と部室棟の下から離れていく。 「まあ、まっとうな意見だったな」 長谷川が言うが藤真は少し納得できないといった表情でぶすくれていた。 3日後。 短く感じた3年間の高校生活が終わった。 ちなみに、やはり高野の心残りである『カノジョがほしかった』は、心残りのまま終わったのだった。 |
桜風
13.2.27
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