drops 1





公園のベンチに座っているの視界はぼやけていた。

全てがかすんで見える。


ふと、陰になった。

見上げるとのっそりと大きな人。

思わず体を引くと「ああ、ごめん」と彼はしゃがんだ。

「何してるの?」

『何』と言われても答えは持ち合わせていない。

は首を横に振る。

「じゃあ、泣いてるの?」

泣いてる...?たぶん、違う。

またしても首を横に振ると彼はニコリと微笑んだ。「よかった」と言う。

「これ、貸してあげるよ」

そういって彼はに差し掛けてやっている傘の持ち手を彼女の手に握らせた。

「いいよ、もう。今更だし。返すの、大変そう...」

既にずぶ濡れだ。


数時間前、は時間をもてあまして公園についた。

ベンチに腰をかけているとポツポツと雨粒は落ちてくる。

それはやがて視界をぼやけさせるほどのものとなった。

しかし、家に帰ろうとは思わなかった。

帰りたくないのだ。

だから、そのままベンチに腰掛けて濡れることを選んだ。

そうしたら、傘を差し掛けてくれた人が居た。

さらに、傘を貸してくれると言う。

「俺、すぐそこの陵南高校に通ってるんだ」

彼は仙道彰と名乗った。

「放課後なら、大抵体育館に居るから」

そう言ってに強引に傘を押し付けて駆けていった。

見る見るうちに傘の代わりに通学バッグを頭の上に掲げて雨避けにした仙道は小さくなっていく。

「速いなぁ...」

はポツリと呟く。




部活が早めに終わって帰っていると公園の中に人影があった。どうやら女の子のようだ。

彼女はベンチに腰掛けてまっすぐ前を向いている。

一瞬、幽霊か何かかと思った。

ベンチの傍の外灯が彼女を仄明るく照らしている。

「先行ってて」

一緒に帰っていたチームメートに声をかけて仙道は公園の中に向かう。

アスファルトの上はまだマシだが、公園の中に入ると泥が跳ねて制服のパンツの裾が汚れる。

「何してるの?」と声をかけてみた。

彼女は驚いたように、怯えた様子を見せた。

近付くと自分と同年代の子だとわかった。

ああ、そうか。見下ろされるとビックリするよな...

そう思って彼女の前にしゃがんだ。傘は手を伸ばして彼女に差し掛ける。

彼女は泣いているようにも見えた。

首を横に振った彼女に「じゃあ、泣いてるの?」と聞いた。

彼女はまたしても首を横に振る。

何となくほっとした。

雨に濡れている顔では実際どうなのかは分からない。

明るかったら目を見れば分かるかもしれないが、既にあたりは随分と暗いのでそれも難しい。

仙道は半ば強引に彼女の手に傘の持ち手を握らせた。

彼女はずぶ濡れだから時既に遅し、という状況だが、何だかこれ以上雨に濡れるのはよくないと思った。

風邪を引くとかそう言うのじゃなくて、何となく...

彼女は困惑していた。返せない、とも。

だから、仙道は自分の通っている、この公園の近所にある学校の名前を口にした。放課後なら、部活で大抵体育館に居るから、彼女が訪ねてきても大丈夫だ。

傘の代わりに通学鞄を頭の上に掲げて仙道は駆け出した。


公園を出たところで一度振り返る。

彼女は仙道から借りた傘を差してやはり前を向いていた。

「風邪引かなきゃいいけどね...」

ポツリと呟き、仙道は皆と行こうと話していたコンビニに向かった。

ずぶ濡れだからきっと入らせてもらえないかもしれない。

誰かにお使いを頼めばいいや、と思って駆け出した。

「あ、名前何て言うんだったっけ...?」

彼女の名前を聞いていないことを、今更に思い出した。









桜風
11.7.6


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