drops 5





注文の品が所狭しとテーブルを占拠した。

「ところで、ちゃんの学校ってそんなに有名なの?」

不意に名前を呼ばれたことには驚く。フランクと言うか、下手をしたら馴れ馴れしい。

「みたい、ですね」

「俺、今さっき言ったとおりこっちが地元じゃないから知らなかったんだけど、さっきちゃんが帰っていってから皆に聞かれたんだよ。どういう知り合いだ、って」

「それで、仙道さんはなんと?」

「傘を貸してあげた子って答えたけど」

その通りで、それ以上でもそれ以下でもない。

は「たしかに、そうですね」と頷く。

「ん?そういえばちゃんって何年生?」

「わたしは3年です。今年は受験だけど、そのままエレベーター狙ってます。仙道さんは?」

「...2年..デス」

途端に敬語になった仙道には思わず噴出した。

ああ、縦社会に生きる体育会系だ。

「そっか。背が高いし、どうか分からなかったから敬語で話させてもらっていたけど、年下だったんですね」

「いや、スミマセン。小さいから年下かと...」

仙道の言葉にはムッとした。

「それは、仙道さんが背が高いだけでしょう?貴方よりも背の高い女の子を捜すほうが大変だと思うわ」

少し強い口調で言うと仙道は苦笑した。そりゃそうだ。

「で、..さん、でいい?」

とりあえず呼び名を確認すると彼女は苦笑して頷く。

さんは、何で敬語のままなの?」

「不愉快ではないでしょう?不愉快なら、まあ、敬語をやめますけど?」

「不愉快でもないけど...まあ、さんがそういうなら俺も気にしないですけど」

「名前に敬称がついただけ充分。そっちは敬語とかいいですよ」

が言うと「助かった」と仙道は笑い、「じゃあ、やっぱりそっちも敬語はなしで」と付け加えた。その方が話しやすい。

仙道は敬語が苦手と言うわけではない。一応ずっと体育会系でやってきている。

だが、先ほどまで年下だと思って接していて、突然年上になって、さらに敬語となると段階が随分と上がってしまう。

「そういえば、仙道くんって下宿なのに外で食べて帰っても大丈夫なの?」

「ああ、うん。そこらへんは大丈夫。今日はばあちゃんが出かけるって言ってたから」と仙道は頷いた。

それなら安心、とも頷く。

呼び方を『さん』から『くん』に変えてみたが反応が無かったのでもそのまま『仙道くん』と呼ぶことにした。


家まで送ると申し出てくれたが、の家の周辺は住宅街の入り口なので、街灯も多いので断った。

家に帰りながらはふと思う。

学校行事とかそう言うのを抜きにしたら、誰かと一緒に夕飯を食べたのは凄く久しぶりだ。

親戚づきあいとかそんなにすることのない家なので、家族で食事をしないとやっぱり個食となる。

誰かと食事をすると結構時間が掛かるものなのだなぁ...

いつもは何となくテレビを見ながら味も何も気にせずに食べているので今日の食事は新鮮だった。

送ってくれると言う話を断ったら「じゃあ、たまに一緒にメシ食おうよ」と誘われて思わず頷いた自分にも驚いた。

途中のコンビニで翌日の朝食を購入して家に帰る。

鍵を挿して玄関の電気を点け、すぐに自室に向かった。

玄関に靴は無く、つまり家には誰も居ない。

風呂の準備をして、その間に明日の時間割の準備をして...

家に帰ったと単に日常に戻った。

「そっか。楽しかったんだ...」

そのときはそうは思わなかったが、家に帰るとそれが殊更強調された。

誰かと一緒に過ごす時間と言うのは楽しいものなのだ。









桜風
11.8.3


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