drops 10





夏休み初日、は早起きをしてリビングに足を踏み入れると「あら」と珍しく朝をゆったり過ごしていた母が驚きの声を上げた。

「珍しい」

「そっちこそ」

海外での事業を決意した親に連れられてもそのまま移住することになる。

どうやらスケジュールとしては8月の後半に向こうに移って、いろいろと準備をするのだとか。

向こうの学校は9月から年度が始まるので、は1年棒に振ることになる。

棒に振ると言うが、生活していれば吸収するものもたくさんあるだろうし、生活になれるための時間だと思えば有意義なものになるのだろう。


親の話に反発して家を出て、そして夜に戻ってきた。

親はそれなりに心配したらしく、向こうでの生活やスケジュールなど事細かに説明してくれた。

というか、そもそも最初から事細かに説明すべき事項ではないのだろうか...

それでも、少しは親の誠意のようなものが見えたのでも大人しくなった。




「お母さん、仕事は?」

「もうちょっとして出て行くわよ。って、何。お弁当?お弁当が要る日だったの??」

英字新聞を読んでいる母が驚きの声を上げた。

そういえば、ウチになぜかある英字新聞は母のものだったのだな、と今更知った。

「わたしが好きで作ってるだけだから」と素っ気無く言う娘ににやりと笑う。

卵焼きが出来上がり、切っているとその端っこがなくなる。

顔を上げると姉が立っていた。起きたばかりなのだろう、だらしなく伸びたTシャツに短パン姿だ。

ご近所では『素敵なお姉さん』で通っている姉は家の中だとかなりずぼらだと言うことは家族だから知っていることだ。

「これ、甘すぎない?」

眉間に皺を寄せる。

「勝手に食べないでよ」

「もらったよー」

事後申請した姉はもぐもぐと口を動かしながらテレビの電源を入れた。

「で?そんなに張り切って弁当作って。彼氏?」

テレビを見ながら姉が言う。

「何?!そんなの居たの??だーからプチ家出までしたのねぇ...」

何故か興味津々の母に溜息をついて「ちがうから」と答えた。

「なぁんだ、つまんない」と声を出したのは姉でソファにゴロリと寝転ぶ。

間違っていない。彼氏ではない。

彼氏ではないが、どういう人になるのだろう。

友人..が妥当か?

「こげくさいよー」

ソファに寝転んだ姉がそう言う。

考え込んでいてポテトサラダにするために火を通していた芋が少し焦げてしまった。

「きゃー」と悲鳴を上げながら対処する。

「落ち着きがないわねぇ...」

スーツの上着を着ながら母が言う。

「いってきまーす」

「あ!タコさん!!」

母の口にはタコさんウィンナーの足がはみ出ていた。

「歯を磨いていけー」とが叫ぶと「美味しいわよー!」という返事があり、玄関のドアが閉まる音がした。

「まったく...」

ブツブツ文句を言っていると視線を感じて顔を上げると姉と目があった。

気まずそうに彼女は視線を逸らす。

「なに?」

「何でもない」

は溜息を吐いて「今ならハムエッグが作れます」と言ってみた。

「食べる」

短く返されて思わず噴出す。

「何で笑うのよ。食べてもらいたかったんでしょう?!」

ムキになって返す姉に「そうそう」と適当に相槌を打ってフライパンを火にかけた。


「じゃ、いってきます」

玄関まで姉が出てきたのでそう声をかけた。

「今日、帰ってくるの?」

「は?!」

姉の言葉は突拍子もない言葉で思わず声を上げた。

「ま、お子様だから...」

ヒラヒラと追い出すように姉が手を振り「何なの...」と文句を言いながらは玄関のドアを開けた。

待ち合わせをしている公園に着くと、既に仙道が居た。

「なに、それ」

「あれ?言わなかったっけ?釣りに行くんだよ」

「わーい、初耳」

棒読みで返すにきょとんとして首を傾げた仙道は気を取り直したように「さ、行こうか」との持っているトートバッグにさりげなく手を伸ばして持ってやった。









桜風
11.9.7


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