| 翔陽高校にも修学旅行というものはあるもので。それにもれなく保健医のもついて行く。 空港に集合というコトで、バスを乗り継ぐは藤真よりも早く家を出た。藤真は家の者に送ってもらうらしい。 誘われたが当たり前のことながら断った。 慣れないバスを乗り継いでは時間ギリギリに着いて慌てて空港の階段を駆け上がった。 「素直に送ってもらわないからだよ」 笑いを含んだ声で背後から藤真が言う。 「何で集合場所に居ないの?」 「笑ってやろうと思ってさ」 そう言いながら藤真はのバッグを取り上げて肩に掛ける。 「先に行っとく」 そう言ってよりも遥かに速く階段を駆け上がって集合場所へと向かった。 荷物が無くなったは先ほどよりも楽に階段を登ることが出来る。 分からない、と思う。 藤真は酷く口が悪い。人の神経を逆撫でることをよく口にするし、挑発的な笑顔を浮かべる。 なのに、彼の行動はさりげなく優しくて、時々勘違いしそうになる。 「あいつは、敵よ...」 何度も自分に言い聞かせて顔を上げる。迷ったら弱くなる。負けてしまう。 集合場所に着くと藤真が爽やかな胡散臭い笑顔を浮かべて近づいてきた。 「はい、先生。お返しします」 「ありがとう。助かったわ」 もクールな保健医の顔でそれを受け取った。 旅行先に着いたら1日目はバスでクラス毎に移動となるが、2日目以降は班単位で自由行動となる。 教員たちは生徒が寄りそうな場所を交代で見回ることになっていた。 「」 見回りをしていたの名前を呼ぶ者がある。 は小さく溜息を吐いていつもの保健医の顔で振り返った。 そこには予想通りに藤真が立っていた。意地悪そうな笑みを浮かべて。 「今日は班行動のはずよ」 「そんなの建前だろう?守ってるヤツなんて殆ど居ないよ」 まあ、そうだろうと思う。実際、自分が見かけた生徒たちは明らかに少人数で小分けされている。 「友達、居ないの?」 「いるさ。友達も、知り合い程度のヤツもたくさん」 まあ、アレだけ外面がよければそれなりに人は集まるか... 「じゃあ、そのお友達とか知り合いの子達と回れば?」 「面倒くさい」 そう言った。 「あっそ。じゃあ、私今度は別の見回りがあるから。気をつけて帰りなさいよ」 がそういい残してスケジュールどおりに次の場所へと向かう。 が、その後ろを藤真がついてくる。 「ストーカー志望なのかしら?」 藤真に聞こえるくらいの大きさの声で振り返らずにそう言う。 「自惚れるなよ。俺が行こうと思った先をが歩いてるんだ。寧ろ、俺のことが好きなんじゃない?」 「何処の誰の話かしら?」 「俺の婚約者、の話。最近はその素直じゃないところも可愛く思えてきたよ」 藤真の言葉には顔を歪ませる。不愉快極まりない。 「はっ。私はただの一度もアナタをステキだと思ったことはないわ。残念ね」 「ホント、残念だな。俺の魅力に気がつかないなんて、男を見る目が無いんじゃないか?」 は鼻で笑ってそのまま少しだけ足を速めた。 それにあわせて藤真も歩くスピードを上げる。 そんなことを何度か繰り返した後に、は諦めて歩く速度を緩めた。 藤真のペースに対抗していたらこっちの体力が持ちそうにない。 「なあ、此処も?」 「そうよ。ほら、面白くないでしょ?よそに行きなさい」 閑散とした土地だった。 一応、歴史ある場所で名所と言っても嘘ではないが。寂れていた。 「は、面白い?」 「そう見える?」 半眼になってが問い返す。藤真は肩を竦めて首を振った。 「仕事よ」 そっけなくそう言った。 「なあ、此処って何の名所?」 「この奥に庵があるの。そこで昔の高僧が修行を積んで生活していたとか何とか」 「行ってみねぇ?」 ゆっくりと振り返り、そう言った藤真を見遣って目を眇める。 「面倒くさい」 一言そう言ったが、藤真は構わずにの肩を抱いてそのまま足を進める。 「ちょっと、やめて」 「いいだろ。先生だって修学旅行楽しめよ」 「キミと一緒ってことで既に楽しめない」 がそう言うとその肩を掴んでいた藤真の腕に力がこもる。 痛いと抗議しようと顔を上げては息を飲んだ。 「そうかよ」と一言そう言って藤真は踵を返した。 は俯いてその場に立ち尽くした。 見上げた先の藤真の表情は怒りと悲しみの両方を孕んで歪んでいた。 「何なのよ...」 呟いた声は誰の元にも届かなかった。 |
桜風
09.7.8
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