| どうも体中が痛いと思ったら... 藤真は天井を見上げながらぼんやりとそう思っていた。 今朝、起きようとすると体中が痛い。 いつもの時間に起きてこない藤真を心配して家の者が起こしにやって来て絶句した。 慌てて彼は出て行き、戻ってきたときには他に何人も連れていた。 青くなる者、目を逸らす者、様々だった。 「様、呼んで参りますね」 当分彼女の顔を見ていなかったからありがたいと思う反面、何故なのだろう?と疑問が浮かぶ。 澄ました顔でやってきたは藤真の顔を見て唖然とした。目が笑っている。 「何?」 のその表情に藤真は問う。だが、はそれに答えることなく 「彼は、おたふく風邪に罹ったことがなかったのですか?」 と、側に居た長くこの家に勤めているものに聞いた。 彼は深く頷く。 それを確認してはもう1度藤真を見た。 「おたふく風邪だと思いますわ」 その声は、少し笑っていた。 藤真がおたふく風邪に罹ろうが、は出勤せねばならない。 藤真を置いては学校へと向かった。 凄く平穏な時間だと思った。 いつもは藤真がやって来たらどうしようと少し怯えていたのだが、今日は紅茶も優雅に飲める。廊下を歩くときにはスキップすらしそうになった。 機嫌良くクルクルと回転椅子に座って回っているとドアがノックされた。 スッと佇まいを直して澄ました声で「どうぞ」と声を掛ける。 ああ、これこそ保健医だ... はその日1日そんな感動に浸っていた。 家に帰ると何となく人数が少なく感じる。 「どうしたんですか?今日はお休みの方が多いようですね」 「いえ、実は...」と話された内容には唖然とした。 何でも、この家に勤めていた者たちの多くはおたふく風邪に罹ったことがないらしい。 大人になっておたふく風邪がに罹ると凄く酷いことになるといわれている。つまり、今回の藤真のおたふく風邪が移るのは危険だというワケで、大半が家に帰されたと言う。 『おたふく風邪に罹っていない』というのが採用条件に入っていたのか!? そう思っても口にはせずに、「まあ、それは大変ですわね。私に出来ることがあればお手伝い致しますわ」と言ってしまった。 「では、健司坊ちゃんの看病を」 と言われて天を仰いだ。迂闊だった... 一生懸命避けていたのに、結局自分から歩み寄る形となってしまった。 は溜息を吐いて部屋を出た。 藤真の部屋の前でもう一度深呼吸をしてドアを叩く。 「はい」と掠れた声が聞こえた。 まあ、これだけ元気が無かったら大丈夫か... ドアを開けて部屋に入ってきた人物を見て藤真は驚いた。 「え、何で...」 「皆お帰りになられたようですの。この家で働いている人の大半はおたふく風邪未経験者だそうですわ。健司坊ちゃんのそれが移ったら大変だからって」 「は?というか、その話し方気持ち悪いからやめてくれね?」 「幼少のみぎりに、1度。そうじゃなかったら断っているわよ。いくら婚約者様の看病でも、わが身が大事」 そう言うと藤真は憮然とした。 「腹減った」 そう呟く。 「でも、食べらんないでしょ?」 「けど、腹減った」 子供のように駄々をこねる藤真に嘆息をしては部屋を出た。 食堂へ行って藤真のわがままを伝えると、食べられそうなものを作ってくれた。 「すみません」 「良いんですよ。そうかー、坊ちゃんもまだだったんですよね。お嬢様は?」 「さすがに、罹ってなかったらお断りさせていただいていましたわ」 そう言うと「そうですよね」と笑って、コックは今作ったばかりのそれを渡してくれた。 「ありがとうございます」と受け取ったは再び藤真の部屋へと向かった。 |
桜風
09.7.29
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