ハツコイ 11





夏休みに入ってすぐ、図書整理日というものがある。

書架の本をきちんとあるべきところに仕舞い、紛失したものを確認したり、補修したりする。

図書委員の唯一の面倒くさい仕事。

3年は暗黙の了解でサボれるのだが、私は気分転換をかねて参加することにした。



学校に着くと男子バスケ部が汗だくになって校内を走っている。

今年こそ打倒海南、全国制覇を掲げて部活動に力を入れていたけど、決勝リーグに進む前に湘北に負けてしまった。

私も試合を見に行ったけど、試合終了のブザーが鳴ったときの透の、藤真くんの、隣に座っていたの顔は忘れられない。

男子は3年全員冬まで残ることを決めた。その決意を透から聞いたとき、正直驚いたけど、でも、そういう選択肢もあると思う。

何より、透は部活を続けながら、この前の定期テストで文系の学年首位だった。


図書室へと行くと、誰も居ません。

あれ?日にち間違えたかな?そう思って司書室、つまり、図書委員の控え室みたいなところなんだけど。そこの日程表にはちゃんと目立つ赤色のペンで図書整理日と書いてある。

ふーん。みんな都合がつかなかったんだ?

一瞬帰ろうかと思ったけど、折角この暑い中、苦手な道を歩いて来たんだから本を整理してしまいましょう。

一応、エアコンつけても怒られないし。


Tシャツとハーフパンツに着替えて書架に向かう。

去年出来なかった書架から手をつける。

本を抜き出して、そして、順番を揃え...

というか、書架って凄く納得いかない。

私の背でも台が要るとかありえないと思う。

どれだけ背の高い集団向きなんだ!?

でも、台を使うのも面倒くさい。一応、背伸びすればギリギリだし、まあ、許してあげよう。

そんなワケのわかんないことを思いながら本を順番に並べていると、1冊手から滑って落ちてくる。

驚いた拍子に変なところに手が当たって、他の本まで雪崩を起こす。

何かに引っ張られる感覚のすぐ後、それは私の目の前に落ちた。

本当なら頭に直撃だったはずなのに...

「何でだけなんだ?」

頭の上で低い声がする。

気がつくと私の腰に誰かの腕が回っている。

「うわぁ...」

慌ててその腕を振り解いて距離を取ると

「ああ、ごめん」

と肩にタオルを掛けて降参するように両手を挙げて苦笑を浮かべる藤真くんが居た。

「走ってたんじゃないの?」

そう聞くと

「今、休憩中。さっき見たからもしかして、って思って。他のやつらは?」

藤真くんは図書館の中をキョロキョロと見渡して言う。

「居ない。誰も来てないね、今のところ」

私の答えを聞いて藤真くんは深い溜息を吐いた。

「だったら、も帰ればいいのに」

呆れながらそう言う。

「まあ、折角来たんだからさ。そうか。藤真くんは休憩中か。じゃあ、私も休もうか」

立ち上がって藤真くんを手招きして司書室へと向かう。


持ってきたドリンクを備え付けのコップに入れて「どうぞ」と藤真くんに勧めた。

藤真くんは「ありがとう」と言って一気飲み。

「ドリンク飲んでこなかったの?」

「ああ...」

と肯定する。呆れた。

藤真くんのコップにもう1杯。

「ちゃんと水分補給しないと、倒れるよ?」

そう言うと藤真くんが小さく笑う。

何だろう?

視線を向けると、

「いや。もずいぶん口数が多くなったなと思って。もう、怖くないのか?」

と先ほど、笑った理由を教えてくれる。

「うん、藤真くんは怖くないなー」

そう答えると、藤真くんは何だか面白くなさそうに「ふーん」と答えた。

「女バス、どう?」

聞いてみた。

「1年がキャプテンだから衝突は多いみただけど、キャプテンが部員に言う以上のことをやってるから、文句は言えないって感じだな。前キャプテンが緩かったから、部員たちはまだ戸惑ってるんじゃないか?」

何となく想像できた。

「たぶん、強くなるね。ウチの女バスも」

「そうだな。な、。何で引退したんだ?」

透は事情を知ってるから聞かなかった。勿体無いなって笑ってたけど。

「親との約束。公式戦で1勝も出来なかったからね。でも、引退して驚いちゃった。私、自分が思ってた以上にバスケが好きだったみたい」

「じゃあ、何で始めたんだ?」

「小学校のときに透が始めたから私も始めたの。コレが最初。あとは、背がにょきにょき伸びちゃったから何だか続けることになったって感じだったなー」

懐かしい。

中学に上がったときも既に背が高かったから先輩たちに囲まれたのを思い出す。

「でも、もうそろそろ透の背中は卒業だけどね。大学がいい機会だわ」

そう言った。

「もう男は怖くないのか?」

聞かれると思った。

「怖いよ?けど、このままずっと透の後ろに隠れて過ごすことは出来ないでしょう?」

そう言うと、

「じゃあ、俺が隣に居てあげるよ」

藤真くんがそんなことを言う。

唐突過ぎて、どうリアクションしていいか分かんなくて、「はい?」と聞き返しながら笑う。

私の問いに答える気がないようで、藤真くんは時計を見て立ち上がった。

「花形に説教されるからもう行くな」

そう言って司書室を出て行った。


さっきの発言は一体なんだったんだろうか...?

大学入試よりももっと難解な問題が生じた気がした。








桜風
08.3.5


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