Jump! 1





流川が体育館に戻るとバスケットボールが弾む音が聞こえてきた。

ドアを開けると、マネージャーのがシュートしているその姿を目にした。

綺麗なフォームだ。

だが、

「届かねぇ...」

流川は呟いた。

その呟きの通り、ボールはリングに届かない。


体育館の壁にぶつかって返ってきたボールを拾っては溜息を吐いた。

ダム、と自分の持つボール以外のドリブルの音が聞こえて振り返ると同学年のバスケ部員、流川がドアの傍に立っていた。

「あれ、帰ってなかったの?」

「ちょっと部室に戻ってただけだ」

「そう...」

まさか、見られてないよね、と思っていると「バスケ、してたのかよ」と声をかけられた。

流川は口数が少ない。

ましてや、彼から言葉を投げてくるとは思って居なかったのでは反応が遅れた。

「おい?」

「あ、うん。してた」

「うち、女バスないだろう?」

「そうね」とは笑う。少しだけ寂しそうだ。

流川はドア付近からドリブルを始めてスリーポイントラインで止まってジャンプシュートをする。

ストン、と綺麗にボールがリングを抜ける。

「さすが」とは声を漏らした。

その後、は流川の練習を見学し、彼はそれを嫌だといわなかった。


制服に着替えて自転車置き場に向かうと、背の高いのが先を歩いていた。

「流川くん」

声を掛けると彼は足を止めて振り返った。

「流川くんも自転車だったんだ?」

「まあ...」

「あ、でも。富中ならそうなっちゃうか。電車って手もあるけど」

「チャリんが楽だから」

そうかな?と首を傾げていると「電車よりは寝坊できる」と彼が言う。

なるほど、時刻表に左右されない分、楽かもしれない。

は頷いた。

「女バスねぇのに、何で湘北に来たんだ?」

凄いな、とは驚く。

あの流川楓が会話を誰かに振っている。バスケのことだと話しやすいのかな、と思いつつ「家庭の事情?」と首を傾げた。

拙いことを聞いたのかと流川は視線を外した。

「ああ、そんな拙い話じゃないと思うよ。良くある話だと思う」

は慌ててフォローを入れる。

「経済的な理由で、自宅から通える国公立以外認めないって言われて。国立はわたしの頭じゃムリだからまず選択肢から外れるでしょ?で、公立ってなるんだけど、やっぱりわたしの頭と家からの距離を考えたら湘北がベストだったのよ。ただそれだけ。よくある話っぽくない?」

「...かもな」

流川が頷く。

「ワンハンドシュート」

わ、見られてた...

は心の中で頭を抱えた。先ほど、フリースローラインからワンハンドシュートにチャレンジしていたのだ。

勿論、届かなかった。

中学のとき、男子のそれがかっこよくて練習してみたが、どうしたって筋力のつき方が違う。

練習したが、結局届いたことはない。

ふと、隣を歩く流川の手を見る。大きさが全然違う。これだけ大きいとボールを支えるのも楽なのだろう。

「いいなぁ...」

不思議そうに流川は隣を歩くを見下ろす。

「練習したけど、上達しなかったよ」

「もうちょい近付きゃ入るんじゃねぇの?」

流川が言う。今日のだって、ほんのちょっと距離が足りなかっただけだったし。

「わたしの目標、フリースローラインから、だったから」

なら、距離を縮めて入っても嬉しくないだろうな。

「ふーん」と相槌のような声を漏らして流川はそれから言葉を発しなかった。









桜風
12.4.25


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