| 歯医者で痛い目を見た翌日、は教室に入ってぽかんとした。 というか、アレだけ気をつけていたのに、新たな虫歯があったのだ。ありえない... それはともかく。 「どうしたの、それ」 と机に突っ伏している流川に声をかける。 流川はチラとこちらを見て「ウルセ」とだけ言った。 「石井くん?」 こちらの様子を覗っていた石井に声をかけると 「い、いや。さん。歯医者はどうだった?」 「虫歯があって色々残念だった。それよりも...」 律儀に応えたに「お大事にー」と昨日の放課後に口にした同じ言葉を口にして視線を外す。 何があったのかさっぱり分からない。 何より、教室に上がってくる前の掲示板で見たものにも驚いた。 水戸達、桜木の友人が3日間の謹慎処分だというのだ。 中学のときはかなり有名なやんちゃ坊主達で、今でも学外で時々やんちゃをしているようだったが、には、彼らがむやみやたらと手を出すような人たちとは思えていなかった。 強いからこそ、中々手を出さない。 なのに、態々学校で。そして、噂では、バスケ部の部活中に体育館で大暴れをしたらしい。 正直、ありえない。 放課後になり、体育館に出ると初めて見る人が居た。 「三井先輩よ」 不思議そうな表情をしているに彩子が言う。 「三井先輩」 彩子が『先輩』ということなら、きっと3年だ。 しかし、どうにもボロボロな人が多い。 「あの、彩子先輩。昨日、何かあったんですか?」 「さ、部活よ。張り切っていきましょう!」 教えてくれる様子がない。 インターハイ地区予選まで残り僅かとなり、練習に熱が入り、そして、放課後、全体練習の後も残って練習する人が増えた。 つまり、の練習する時間がなくなってしまったのだ。 体育館の外で掌を見つめながら開いて閉じてを繰り返す。 「おい」 不意に声をかけられては声を上げそうになった。 「時間あるなら朝やれば?」 声をかけてきたのは流川で、そんなことを言う。 「朝...?」 朝、体育館を使わせてもらうと言うことだろうか。 「リングがある所、知ってる」 「けど、そこって、流川くんが使ってるんでしょ?」 リングがあるところを知っているなら、つまりは自分が遣っているということだ。 物凄く意外だ。 流川はじっとを見て、そのまま何も言わず踵を返した。 親切心だったのだろう。ちょっと悪いことをしたかな、とは反省した。 インターハイ地区予選の初戦は平日に行われる。 彩子は同行したが、は留守番だ。 元々ベンチに入れるマネージャーはひとりだし、強豪でもないバスケ部のマネージャーが2人も公欠できない。 部員もおそらくベンチに入れない人は今日は公欠が認められないのだろうが、湘北高校バスケ部は全員ベンチ入り。 と、いうわけでは留守番となっているのだが... 落ち着かない... 腕時計を見ては溜息をつく。 そろそろ試合が始まる時間だ。 前の試合が延長になっていれば多少押しているだろうが、初戦でそれは中々考えられない。 結果はみんなが戻って来るまで分からない。本当に落ち着かない。 放課後になって、結果がやっと分かった。 初戦突破。 そして、桜木が退場。 華々しいデビュー戦である。 その後も湘北の快進撃は続いた。 あっという間のベスト8。 も何とか練習が出来るようになった。 勿論、部員達は全体練習の後残って練習をするが、さすがに試合の前日は遅くまでやらない。 少し待っていればみんな帰っていくのだ。 流川以外。 「流川くん、明日も試合なのにこんな遅くまで残って大丈夫なの?」 「もうすぐ帰る」 の言葉に素っ気無く流川が返す。 「体育館の鍵、わたし返しておくから」 一応そう声をかけておいた。 「は帰んねぇのかよ」 ドリブルの手を止めて流川が言う。 「もうちょいやっていきたいから」 が返すと流川は「ふーん」と呟いた。 「なら、俺ももうちょっとやって帰る」 「え、でも明日試合でしょう?!」 が驚いて声を上げると「別に」と流川が言う。 返答として全く的を得ていないが、それ以上は何も言えず、零れた言葉は「ありがとう」だった。 |
桜風
12.6.13
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