Jump! 9





ベスト8、つまり次の試合はシード校との対戦となる。

湘北が対戦するのは第二シード校の翔陽高校。

ベンチに入り切らない控えが大勢いる強豪校だ。全国大会にも常連である。

今回もベンチには彩子が居るため、はスタンドでの応援となった。

最前列には水戸たちの姿が見えたが、知り合いが一緒のようなので、はそこから少し離れた場所に座った。

一人ぼっちの観戦は意外と嫌いではない。

選手が体育館に入ってくる前から翔陽は応援に熱が入っている。

「面白いなー」

ポツリと呟く。

あれだけ大勢いると、部員の名前を覚えるのも一苦労だ。いや、名前は覚えても顔と一致しそうにない。

これまで翔陽と対戦したことがない、と会場に着いたときに彩子から聞いた。

昨年は小さくまとまったチームだった、と。

そして、翔陽は選手が監督を兼任しているとか。

男子の試合自体、そんなに見ていたわけではないので、学年が違う人の中学時代なんてよく分からない。

もしかしたら、県外から強豪と呼ばれる翔陽に入学してきた人なのかもしれない。

名前は、たしか..藤真健司。


時間となり、選手達が入場してきた。

水戸達が桜木をからかう。それに一々反応するものだから、水戸たちも楽しんでいるというのに...

そして、翔陽の選手に「わお」とは思わず声を漏らした。

でかい。とにかく、でかい。

人間山脈が作り上げられている。

昨年小さくまとまったチームだったと彩子は言っていた。

「あ、そか」

あの大きな部だ。昨年はレギュラーが3年だけだったのかもしれない。いや、2年の、今監督をしている藤真が居たから全員と言うわけではないが、殆どが3年だったのだろう。

3年が抜ければ、今度は当時の2年がレギュラーになる。

そのときの控えはどうだったのだろうか...

たぶん、ベンチにはこの人間山脈が控えていたに違いない。

今回の湘北のスタメンは赤木、三井、宮城、桜木、流川だ。

宮城は、少し低めだが、あとの4人は決して低くない。寧ろ『高い』と言えるのではないだろうか。

それなのに、あの翔陽のスタメンを前にすると小さく見える。

あの中に入ると、ジャングルに迷い込んだ感覚になりそうだ。



試合終了のホイッスルが鳴った。

すぐに控え室に向かおうと思っていたのに、会場を後にする人たちのお陰で中々身動きが取れず、やっとの思いで控え室の前に辿り着いた。

「あれ、小暮さん...」

控え室の前に、まだ着替えていない小暮が立っていた。

「あ、さん。ちょっとここに立っててくれるかな。立ち入り禁止って」

「何かあったんですか?」

心配そうな声を上げるに小暮は慌てて「違う違う」と首を横に振る。

「寝ちゃったんだ」

「...はい?」

「激戦だっただろう?疲れたんじゃないかな」

なるほど...

控え室で寝ているスタメンたちの眠りを守ろうと小暮は着替えもせずに門番をしていたのだろう。

「小暮さん、早く着替えなきゃ。体冷えますよ。門番は、わたしに任せてください」

ぽんと胸を叩くに小さく笑った小暮は「じゃあ、よろしくな」と言って控え室に入っていった。


「あら、どうしたの?」

着替えを済ませてきたらしい彩子が門番のに声をかけてきた。

先ほど小暮から聞いた話をすると彩子は苦笑した。

「なるほどね。小暮先輩の着替えが終わったら起こしましょうか」

「起こしちゃうんですか?!」

驚いて声を上げる

「家に帰ってゆっくりした方が体には良いと思わない?」

と彩子が言う。

一理ある。

一理あるが...

「あの、流川くんって。自分の眠りを妨げる人は何人たりとも許さないらしいんですけど...」

の言葉に彩子は少し悩む。

「遠くから声をかけて、起きたらそのまま起こしましょう」

「起きなかったら?」

「...置いて帰る?」

それは酷い。

「わたし、待っておきましょうか?何にもしてないし。あ、でも。学校に戻って片づけがありますよね」

「片付けは明日で良いわよ。そうね、頼める?もし、流川が何かしてきたら全力で逃げるのよ?」

彩子がイタズラっぽく笑って言う。

「あの、何の話でしょうか...」

が問うと「なーんでもない」と笑って彩子は控え室のドアをノックして「彩子です」と声をかけて部屋の中に入って行った。









桜風
12.6.20


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