Jump! 10





流川が目を明けると、部屋の中にはオレンジの光が差し込んでいる。

ムクリと体を起こした。

ボリボリと頭を掻く。

「おはよ」

声を掛けられて緩慢な動作で声がした方を見た。

...」

「うん、おはよう。みんな帰っちゃった」

「は?」

は流川につい数時間前の話をした。

「ふーん」

ボリボリとまた頭を掻く。

「ほら、着替えて。もうすっかり体冷えたんじゃないの?あったかいの..って売ってないか」

今の季節、自販機に温かい飲み物なんてない。

「会場近くの、ファミレスに入る?」

心配そうにが言うと

「や、いい」

と流川は素っ気無く返した。

立ち上がって、ユニフォームを脱ぐ。

じっとこちらを見ているに「おい」と一応声を掛けてみた。

「え?あ..ああ!ごめん!!」

は慌ててロッカーを挟んだ向こう側に隠れる。

「何処の痴女かと思った」

「ち...!もう!!」

思わず繰り返せないその単語には心から反省した。

「やっぱりそれくらい筋肉いるのかなって思っただけ」

「筋肉?」

「う、うん...」

今更だが、着替えをしている流川の衣擦れの音に恥ずかしくなる。

「ワンハンドシュートか?」

「うん、もうちょっとだと思うんだけどね」

「お前、筋トレしてんのか?」

「一応...」

そう言いながらは力瘤を作ってみた。

元々筋肉が付きやすい体質ではないらしい。中々良い感じの筋肉がつかない。

「いいぞ」

流川の言葉を信じてが顔を覗かせると流川はバッグに適当に色々突っ込んでいた。

「畳んで入れたら?」

「どうせ、家に帰ったら洗濯機に突っ込むだけなんだから良いんだよ」

そう言って流川は先に控え室を出て行った。


「今日、居残りでやるか?」

会場へは一度学校集合だったので自転車が学校にある。戻らなくてはならない。

「ううん、今日は鍵を貸してもらうのにも口実がないから」

「俺がいるだろう。借りてやる」

「控え室で本気寝をする選手が後で練習とか。それ知られたら、わたしは何故全力で止めなかったのかと彩子先輩に怒られてしまいそう...」

の言葉に流川は「ふーん」と返した。

バスに乗る。今の時間だとそんなに混んではいないが、座れなかった。

「大丈夫?」

が見上げて言うと流川は視線で疑問を投げてきた。

「や、疲れてない?」

「さっき本気寝した」

そういえばそうだった。

「けど、今日の試合凄かったね」

が流川を見上げて言う。首が痛い。

「オフェンスの鬼って感じの流川くんに、三井先輩のスリーポイントも凄かったなー。けど、最後の...」

桜木のダンク。

結局はオフェンスファウルとなったが、あの迫力。今日の試合のインパクトを全部持っていった感じだった。

「高校生ともなれば、試合でダンク出来るようになるんだね」

じっと流川は何も言わずにを見下ろしていた。

その視線が思いのほか痛くて「流川くん?」とが視線の意味を問う。

「わっ!」

急ブレーキが掛かる。

倒れそうになるを流川が軽々と支えた。

「ありがとう」

「確かに、ちゃんと筋トレしてんだな」

咄嗟にの二の腕を掴んだ流川が言う。

「んー、けどあんま付かないのよね。こうなったら、プロテインかな?」

流川に腕をつかまれていると言うのに、この反応。

「足とかは?」

ばねだし、高く飛べたほうが楽だ。はフォームが綺麗だから、あとは肉体的なものが補えたらきっとフリースローラインからのシュートだって届くはずなのだ。

「足も一応鍛えてるよ」

そういいながらスカートの裾を上げようとしたので、それはさすがに流川が「どあほう」と止めた。

「え?あ、ああ。そか。体育館じゃないんだ」

体育館だったらそのままスカートの裾を上げるのか...

「ワケわかんねぇ...」

「何?」

ポツリと呟いた流川の言葉が聞き取れずに聞き返すと盛大な溜息とともに「どあほう」と流川が言う。

「なによー」

ムキになって言うに溜息をつく。

とりあえず、降車ブザーを押した。

次のバス停は、湘北高校前だ。








桜風
12.6.27


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