風と雲/きみと私 1





「ねえ、きみの名前。教えてよ」

「アキラ。お姉さんは?」



さん、ね」

これが、彼との初めての自己紹介で、別れの挨拶の始まりだった。

そして、その1年後に再会するとは思ってもいなかった。



。これが私の名前。

私の年代で中学バスケをしていた子だったらこの名前は必ず聞いたことがあると言っても過言ではない。

でも、私はバスケ部を高校2年の夏に辞めた。

それから、普通に受験生をして、大学生になる。

地元は神奈川。

大学は東京にある某大学の教育学部。

趣味は、釣り。

大学ではサークル等には入らず、平日はバイト、休日のどちらかは釣りに自分の時間を費やしている。

釣り仲間のおっちゃんと世間話をするのも中々勉強になるし、侮ってはいけない。

私たちの釣り場に、時々男の子がやってくる。

年齢不詳。

何となくあどけなさも有るけど、背が高いから童顔の同じ年か?とも思ってしまう。

とにかく不思議な存在。


「ちは」

ちゃんと挨拶のできる子で、かなり好感を持ってます、私。

「こんにちは。今日は釣れるといいね」

彼は結構通ってるけど、釣りは苦手なのか、釣り糸を垂らして日が沈んでいく。

何で釣れないんだろう?私は大抵バケツいっぱいで処分に困るというのに。

最近はキャッチ・アンド・リリースを心掛けているから、夕飯が毎日お魚って事にはならないけど。

彼は釣り糸を垂らすだけで満足しているのか...

心の中で太公望と名付けておいた。


同じ釣り場を共有する仲間として段々彼との会話も増えてくる。

腕を見るとかなり鍛えているのが分かる。凄くしなやかな筋肉だ。

「ねえ、何かスポーツしてるの?」

聞いてみると、

「そう見えます?」

と言って笑う。

それ以上答えない。

その代わり別のことなら良くしゃべる。

特に、魚のこと。

そんなに魚が好きなのに、何で魚に好かれないんだろうね。

以前そう言ってみると、

「俺、振られん坊ですから」

と言って柔らかい笑みを浮かべる。

捉え所のない彼と話をするのは、中々刺激的で、色んな発見があるから楽しい。

私たちは、ずっと「きみ」「お姉さん」で呼び合っていた。

私が「きみ」って呼べる人は彼しか居ないし、彼もまた然り。

お互い不便でないからそれでいいと、名前を聞かなかった。

「きみは風だね」

そう言ってみた。

捉え所がない、けど、その存在は身近に感じれる。

「じゃあ、俺はそよ風ですね」

「自分で言う?」

思わず噴出してしまう。

「でも、台風じゃないでしょう?」

「まあ、確かにね」

そんな激しさ、全然感じられない。

私の答えに満足したのか、彼はいつもの柔らかい笑みを浮かべた。










桜風
07.6.7


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