| 2週間の教育実習が無事終了して、東京に帰る。 久しぶりに釣竿を持って釣り場へ向かった。 釣り仲間のおじさんたちに声を掛けられながら、腰を下ろして、糸を垂らす。 「ちは」 ドカ、と私の隣に座ったのは彼だった。 「こんにちは。久しぶりだねー」 「ずっと来てなかったですよね?まあ、俺もあまり来てませんでしたけど」 「忙しいんだ?」 「まあ、一応。受験生ですから」 そんなことを言う。 受験生?てことは、高校生か? 「今日も坊主かな?」 彼に聞くと 「いつもいつもそんなんじゃないですよ」 と言って笑う。 彼の隣は意外にも落ち着く。 しかし、今日は朝から膝が痛い。 昔のキズがうずくと言うか。天気が悪いとこうなってしまう。 だから、梅雨は大嫌いだし、夕立のある夏もあまり好きではない。 「今日は早めに上がった方がいいよ。雨が降ると思う」 隣の彼にそう言うと笑われた。 こんなに天気がいいのに?って。 いよいよ膝が痛くなって釣りどころではなくなる。 私は立ち上がって少し考えた。 「ごめん、先に帰るわ」 「え!?」 彼が驚く。 足が痛くて、クーラーボックスを持って帰るのが大変そうだ。 「ねえ、きみは御家族と住んでるの?」 「まあ、一応」 「じゃあさ。これ、持って帰って食べちゃって。私、これから用事があって持って帰れないから。今度いつ来る予定?」 そう聞くと、 「今度の日曜も来ることにしますよ」 と言ってくれた。 「ごめんね、迷惑かけて」 「いいですよ。待ち合わせなんて、デートみたいですね」 そう言って笑う。 その言葉と彼の笑顔が意外で、思わず絶句してしまった。 「ナマイキー」 そう言うと彼は笑う。 ホント掴み所がないなー、この子は。 翌週、約束どおり彼は釣り場に来てくれた。 ただ、何故かジャージ姿。 「え、どうしたの?」 「あ、試合の帰りだから」 そんなことを言う。 見るとバッグには『baskt ball』と言うロゴがある。 足元を見れば、バッシュだし。まあ、バッシュは普通にバスケをしない人でも履くけど... 「試合があるのに、持ってきてくれたの?というか、持ち運んでたの?」 「約束だったから」 そんなことを言う。 うわー、悪いことしちゃったな... 「断ってくれたら良かったのに。来週は試合があるからって」 「いや。俺が会いたかったから気にしないでください」 一瞬頭の中が真っ白になる。 おーい、イマドキの高校生ってこんななの!? 「お姉さん、顔が赤いよ」 と言って屈託なく笑う。 「夕日が...」 「まだ日が高いじゃないですか」 今度はお腹を抱えて笑う。 ああ、こんな風にも笑えるんだ、この子。 つられて私も笑ってしまう。 「ねえ、お姉さん」 「ん?」 「バスケは、好きですか?」 聞かれて即答できなくなった自分に驚く。 「...好きじゃないわ」 そう答えた。 「そうですか。お姉さんがバスケを好きだったら良かったのに」 そう呟く。 ...昔は大好きだったんだけどね。 心の中で一応弁明しておいた。 それから、彼の口からバスケの話はなく、私も卒論とかで忙しくて段々会わなくなった。 卒論の提出も済んで、試験も終了し、全くのフリーになった私は久しぶりに釣り場へ向かう。 寒くなると人が少なくなる。 「お。久しぶりー!あれ、また背が伸びた?」 釣り場には彼しか居なかった。 「久しぶりです。寒いのに、よく来ましたね」 膝は痛いけど、何となく来たくなったから... 「まあねー。きみもどうしたの?」 「いや、別に」 そう言って寂しそうに笑う。 「ねえ、きみの名前。教えてよ」 4月から私は実家に帰る。 就職が決まらないという、かっこ悪い形での帰還だ。 陵南に空きがなかった。田岡先生も色々気にかけてくださったけど、これはどうしようもないことだ。 「アキラ」 彼はそう答えた。 「お姉さんは?」 「」 聞かれて答えたのは名前だけ。苗字は言いたくない。バスケをしている彼なら、もしかしたら聞いたことがあるかもしれない。 『』 今はバスケから遠ざかった負け犬だ。 「さん、ね」 そういったあと、彼は何度か私の名前を口にした。 もう二度と会えないだろうアキラくんとの記念に、彼の写真を撮らせてもらった。 私が外に出たのも、自分が住んでた風景を撮っておきたかったから。 海を背景に、彼を撮る。 そんなに彼との思い出が多いとは思わない。 ただ只管釣り糸をたらして話していただけだから。 それでも、彼との別れを寂しいと思う私。 「2人のも撮れませんか?」 アキラくんがそう言う。 「オッケー」と言ったものの、自分で自分を撮るのが凄く苦手な私。 四苦八苦してると、アキラくんが笑いながら私の手の中のデジカメをとる。大きな手に少しだけ脈が速くなる。 「俺がやったほうが上手そうだ」 そんな失礼なことを言う。 「じゃ、いきますよ」 そう言う。 カメラに向かってピースサインと笑顔を向ける。 シャッターを切ると同時に頬に柔らかいものが当たった。 振り仰ぐとアキラくんが目を細めている。 「俺、さんと釣りが出来て良かった。一緒に居られて、話せて。ありがとう」 「殆ど坊主だったけどね」 そう言うと彼は微笑む。 「というか、さっきの何!?」 これははっきりさせておかねば! 「餞別。じゃあ、俺もう帰ります。ありがとう、さん」 そう言って呆然とする私の横をすり抜けてアキラくんは去っていった。 アキラくんの背中を見て泣きそうになる自分に気付く。 くそー、膝が痛い... 関係ないことに意識を向けて、我慢した。 |
桜風
07.6.28
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