風と雲/きみと私 6





現役高校生バスケット部の体力には恐れ入る。

どんなに練習してへとへとになっても、それでも走り続ける。コレが勝利への飽くなき執念とか言うヤツなんだろうね。

それに付き合う私はもう年かも...と思ってしまうくらいついていけない。


が来てくれて助かってるよ」

そう言って田岡先生が笑う。

最近の休憩時間は避難するようにした。

「そういえば、は元気か?」

先生にそういわれた。

?」

「何だ、お前ら付き合っていただろう?アツアツだったじゃないか」

あー、ジェネレーションギャップ?『アツアツ』って表現、久しぶりに聞きましたよ、田岡先生。

「高2の夏に別れましたよ。そのあと、彼は女バスのルーキーと付き合い始めましたから」

「そうなのか!?上手くいってるように見えていたがな」

「まあ、私は彼のオプションとしての価値がなくなったんですよね」

田岡先生が眉を顰める。

「彼、良く言ってたじゃないですか。『俺は天才だから日本のエースになれる逸材だ』って」

「ああ、言ってたな。その可能性を一概には否定できなかったが...」

思い出すように田岡先生が顎に手を当てる。

「まあ、彼の理屈で言いますと。そんな彼にはそれなりの有望な彼女がお似合いであって。バスケを辞めなきゃいけなくなった私には用が無かったようですよ」

そう言うと先生は俯いて溜息をつく。

「そんなことが...すまなかったな。悪いことを聞いた」

「いいえ。1週間凄く悔しくて泣き続けました。そしたら、彼のことなんてどうでも良くなってました。私は受験生で頑張らないといけないので、彼のことを悩む時間は全然無かったんです。いやぁ、いい勉強になりましたね。ちょっと高いけど、1年半の私の人生が授業料です。
の情報がほしいんだったらに聞いてみましょうか?覚えてますか、。彼女はまだ交流が有るかもしれませんよ。ただ...」

「ただ、どうした?」

「大学に入って天狗鼻へし折られてバスケを辞めたって噂は、一度耳にしましたけど...」

「それもあるかもしれんな。プライドが異常に高かったからな、アイツは」

「全くです」と言って笑う。

あーあー、あったなー。

母校に居ると色々昔を思い出すわ。


ピピッと腕時計が鳴る。

「休憩おしまいですよ」

「じゃあ、戻るか」

先生の後について体育館に戻る。


その日の練習が終了して片付け始めた頃、仙道くんが近寄ってきた。

「先生、デートしましょう」

突然そんなことを言う。

数人が飲んでいたドリンクを噴出した。

「すぐに拭きなさいね。後が大変よ」

そう部員たちに声を掛けて仙道くんを見上げる。

「何を言ってるの?」

「池上さんに聞きました。2年前、教育実習のときそう言われて勝負を受けたんでしょう?」

池上めー!!

「受けたわね。ああ、懐かしい。私も若かった...」

「だから、俺の勝負も受けてください」

「断ったら...?」

「デートしてもらいます。俺の不戦勝」

溜息が漏れる。

ったく、池上めー!!

「分かりました。ルールは...」

「聞きました。2年前と同じでいいです」

そう言われて、肩をあっためる。

「どっち先攻?」

「譲りますよ。レディファーストです」

「そりゃどうも」


予想通り仙道くんは9本目で外すことは無く、延長戦。

ここから先は、外したら負けとなる。

この緊張感は凄く久しぶりで、昔の感覚が甦り、軽くトランス状態に入る。

ただ、リングしか見えなかったあのときのそれだ。

私は只管シュートを決めるスコアラーだった。

得点率は高かった。

よほどブロックされない限りシュートは外さない。だから、フリースロー対決では負ける気がしなかった。

が、その感覚が冷めてくる。

ズキン、と痛みが私の集中力を途切れさせる。

それでも、私のプライドが支えてくれる。どうしようもなくプライドが高かったのは私も同じ。

只管負けたくなくて、毎日遅くまで練習をした。ボールが渡れば、リングにそれを放つのが私の仕事で、誇りだった。

一度に言われたことがある。

ってリングに恋してるんだね」

たぶん、そんな感じだ。私は試合のときも練習のときもリングしか見ていなかった。

盲目なまでの恋をしていた。

リングに嫌われたくなくて、毎日残って練習をした。


「100本ー!」

周囲のざわめきに意識が戻る。

プライドでは支えられないほどの膝の痛みを感じる。

「はい、私の負け」

そう言ってボールをその場に置いた。

「約束ね。仙道くん、明日の買出し一緒に行きましょう。それが、デートです。というワケで1年生は行かなくていいわよ。仙道くんが荷物持ち。田岡先生には私から話しておくから。じゃ、お先」

そう言って体育館を出る。

部員たちに悟られないよう、いつもどおりに歩いて。


体育館を出た途端、私は崩れた。

運動以外の、イヤな汗までかいている。

呼吸も荒く、どうやったら進めるのか考えてしまう。

とにかく、壁に手を着いて体を支える。右足だけの力で立ち上がり、あとは左足に負担をかけないように引き摺りながら進んだ。

何とか冷やしたかったけど、氷が無いし、スプレーは今持ってない。

階段の下に、水場があった。しないよりマシだ。

階段ではなく、土手を滑り降りた。

這うようにして水場に行き、ジャージの裾を捲る。

傷跡に水を直接当てる。

ぬるい...

冷えた水がいいなーって思っていたら、

さん!」

と上から声がする。

うわあ、見られたくない人に見られちゃったよ...

「すみません、俺...」

駆け寄ってきて泣きそうな顔をしている。

「...何て顔をしてるの。魚住くんから聞いちゃったの?」

「はい。ホント、ごめんなさい」

「いいよ、私が選んだんだから。それよりさ、アイシングしたいのよ。水、ぬるくてさ」

そう言うと、何を考えたのか。

仙道くんは水道の蛇口を閉めて迷うことなく私を抱えた。

「え、ちょっと!?」

仙道くんは階段を駆け上がり、体育館へ。

待って、その前に降ろして!これって世間一般で言うところの『お姫様抱っこ』じゃないの!!

「彦一、スプレー。氷嚢作れたら、氷嚢も!」

「はい!」

あー、もう。好きにして。

私は仙道くんに抱えられたまま治療を受けましたよ。

まったく、何てことでしょうね...










桜風
07.7.5


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