風と雲/きみと私 11





夏休みに入ると、田岡先生の厳しい指導の下、本格的に新生陵南高校バスケ部が始動した。

全国大会では、湘北は前回の大会の覇者、秋田の山王工業を下す大金星をあげたけど、そこで力尽きて次の試合で敗退したらしい。

そして、神奈川の王者海南は全国2位という堂々の成績を修めて凱旋した。


部活動漬けの毎日を送っていたけど、久しぶりの休みが出来た。

釣竿とクーラーボックスを持って埠頭へと向かう。

「お。久しぶりじゃない」

そう言うと仙道くんは私を見て微笑む。

「ちは」

「こんにちは。釣れてる?」

「いや。イマイチですよ」

彼のバケツの中を覗くと

「相変わらずの坊主ですねー」

と言葉が漏れてしまった。

「まあ、いいんですよ」

そう言って笑う。

仙道くんの隣に座って、釣り糸を垂らす。

穏やかな時間が流れる。

「惜しかったよねー」

言葉が漏れる。

「ん?」

「ちょっと前の話だけど、IH予選」

「まあ、言っても仕方ないですよ。冬は、全国に行きますよ」

「翔陽は3年全員残ってるらしいわよ」

「そうですね」

「海南も、そうだって聞いたわ」

「はい。でも、リベンジ出来て良いじゃないですか」

そんな強気なことを言う。

「おー。頼りになるね、ウチのエースは」

そう言うとにこりと微笑む。

「今回、キスを逃しましたから」

...『スズキ目キス科の海水魚』のことじゃないよね、たぶん。

何と言っても、それだったら彼は殆ど逃しまくりだ...

「諦めてないの?」

「当然ですよ。条件は『全国出場』ですからね。どの大会って言わなかったし」

そう言って不敵に笑う。

「...案外しぶといのね」

「せめて粘り強いって言ってくださいよ」

笑いながらそう言った。


少し考える。

ちょっと前から考えていたこと。今、チャンス?

「ねえ、仙道くん」

内緒話をするように口元に手を添えて顔を近づける。

「ん?」

そう言って彼が耳を近づけてきた。

チュッと音を立てて顔を離す。

仙道くんは私がキスした頬を抑えて呆然として私を見つめた。

「まあ、予選頑張ってたしね。そのご褒美と言うか...」

何だか自分で凄く恥かしくなる。

でも、この仙道くんの呆然とした顔が見れたから、いっかなーって思ってたら仙道くんは

「こっちがいいです」

と言って自分の唇に指を当てる。

「それは、ダメー。約束してるでしょう?さっきも自分でそう言ったばかりじゃない」

そう言うと彼は拗ねて口を尖らせながら「ちぇ」と言う。

「じゃあ、さん」

先生とお呼びなさい」

「でも、今は学校じゃないし。ただの釣り仲間じゃないですか」

そう言う。

まあ、良いでしょう。

「まあ、いいわ。何?」

「全国制覇したら何してくれます?」

「はあ?」

「全国でMVP取ったら結婚してくれますか?」

「10年早い」

何なの、この子は?!

「上手く行かないなー」

「そういうものよ、人生は」

そう言うと「ま、その方が楽しそうですよね」とコメントした。

うわ、凄い自信...


「先生!」

呼ばれて見てみれば、バスケ部が揃っている。

「あれ?今日部活だったっけ?」

仙道くんに聞くと、

「いや、休みですよ」

そう言う。

ドヤドヤと皆がやって来て、私と仙道くんを囲んだ。

「な、何?せっかくのお休みにバスケ部が集まって...」

「いや、何となくこんな集団になってしまったんです」

と相田くん。

「先生たちは?」

「こっちも、何となくそんな集団になったのです」

「開けて良いですか?」

私の横のクーラーボックスに手を伸ばすのは、越野くん。

「いいよ」と言うと、私のクーラーボックスを開けて歓声を上げる。

「先生、凄いですね!」

「フリースローで勝てなくても、釣りでなら勝てると思うよ。仙道くんには」

私がそう言うと皆が仙道くんのバケツを覗く。

「坊主だ」

福田くんが呟く。

「ねー、ホント。さて、今大丈夫かな?」

携帯を取り出してダイヤルする。

『魚住です』

「陵南高校のと申します。あの...」

先生。どうしたんですか』

「お、魚住くん?あのさ、魚釣ったから捌いてもらえないかな。お店の準備で忙しい?」

『いえ、今日は定休日ですから大丈夫ですよ』

「いい?じゃあ、魚とバスケ部連れて行くわ」

『...煩くなりそうですね』

「せめて『賑やかになりそうだ』にしてあげようよ」

魚住くんの感想が本当に的を得ているので可笑しくなる。

『じゃあ、はい。どうぞ。お待ちしてます』

「よろしく〜」

そう言って通話を切る。

「と、言うワケだから。魚住くんの家に行くわよ」

竿を畳んで立ち上がる。

「あ、ワイが持ちます」

相田くんはそう言って私のクーラーボックスを持ってくれた。

「助かるわー」

そんな感じで奇妙な同窓会をしてしまった。










桜風
07.7.19


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