風と雲/きみと私 12





夏休みが明けたある日。

田岡先生が

「翔陽に練習試合を申し込んだ。夏休みの練習の成果を存分に発揮するんだぞ!」

と皆に檄を飛ばす。

うわ、いきなり強豪じゃないの。先生も思い切ったなー...



そして、試合当日。

私の携帯に電話が掛かる。

一瞬わが耳を疑った。何ですと!?

「はい?」

『いや、すまん。だから、親戚に不幸があって。これが、近しい者だから欠席と言うわけにはいかんのだ。すまんが、が監督をやってくれ』

ああ、今すぐ遠くへ行きたい...


「えー。と言うわけで。田岡先生がお休みになります。中止と言うわけにはいかないので、皆頑張っていきましょう!」

私が頑張れ!

ざわざわと部員たちの不安が伝わってくる。

「まあ、そう言う事情なら仕方ないよな。よし、田岡監督に勝利の報告が出来るように皆、頑張ろう」

仙道くんの落ち着いた一言に皆の動揺がスーッと引いていく。

流石のカリスマ性...


翔陽高校に着いた。体育館へ行くとあぶれた部員たちがギャラリーを陣取っている。

ひとつ、深呼吸をした。

「大丈夫」

頭の上で仙道くんの声がする。

オッケー、行きましょう。

翔陽の顧問の先生に挨拶をして、そして、田岡先生不在の旨を説明する。

隣にいた選手兼監督の藤真くんが

「えーと。じゃあ、監督抜きというコトになりますか?」

と不安げに言ってきた。

そりゃそうだ。

だって、お互い練習の成果を見たいから試合を組んだんであって、ただじゃれるために試合をするんじゃない。

指揮官が居ないチームとプレイしても成果が見えないと言うワケだ。

「いえ。監督は、先生です」

私の肩をポンと叩いて仙道くんはそう言う。

その声に、仙道くんからの信頼を感じた。

「試合、させていただけますか?」

そう訊ねた。

「それは、勿論...」

藤真くんの不安は消えそうに無い。相手チームが此処まで来たんだから追い返すわけにもいかないって感じだろう。

「では、30分後に試合開始というコトで」

そう告げて陵南ベンチに戻った。

「えー、試合します。今回は私が監督となります。よろしく」

改めて部員たちにそう言う。

翔陽との試合が決まって毎日ビデオを見た。

上手くなってるだろうけど、それでも、動きのクセは頭に入ってる。

やるしかないなら、やってやりましょう!

女も度胸!


とりあえず、外から客観的に試合の流れを読むのが監督だと私は思う。

けど、そんな事一度もしたことはない。

ビデオを見るのだって、コートに入って自分がプレイしている姿を思い浮かべていた。私だったらどう動くか。

今の私にはそういう見方しか出来ない。

なら、それで勝負してやろうじゃん!



試合の結果は、我が陵南の1ゴール差で負けとなった。

一度、交代を躊躇った場面があった。あそこで完全に翔陽に流れを持っていかれた。

「ありがとうございました。勉強になりました」

藤真くんに握手を求められる。

「こちらこそ、勉強になりました。ありがとう」

「田岡監督にもよろしくお伝えください」

「はい。本当にお世話になりました。ありがとうございます」

挨拶を済ませて帰る。

駅前で現地解散をして、私は先ほどの試合を録画したテープを持って学校へ向かった。


視聴覚室を借りてテープを再生する。

少しして

「何してるんですか?」

と声が聞こえた。

「独り反省会」

振り返らずにそう言う。

目の前にお茶のペットボトルが置かれた。

「寄ってください」

端っこに座ってた私の隣に座りたいのか、仙道くんがそう言う。

言われたとおりにひとつ隣の席に寄った。

「正直、意外でした」

「へ?」

さんの采配」

「此処は学校ですよー」

先生の采配」

言い直す。律儀だなー。あ、私がそうするように言ってきたのか。

「私の采配?」

「凄く臨機応変で」

「計画性が無いからねー。冷静さに欠けてるって自分で感じてたわ」

そう言ってさっき仙道くんが私の前に置いたペットボトルの蓋を開ける。「もらうよ」と言うと「どうぞ」と返ってくる。

「うーん、でも。こことか」

仙道くんが画面を指さす。

『仙道くん、8番!!』

スピーカーから私の声が聞こえる。

「ああ、高野くんにパスが来たときね」

「そう。俺、先生の声に何とか反応できたけど。それがなかったら福田は簡単に抜かれてましたよ」

そんなことを言う。

「そうかなー。来るって分かったから声に出したんだけど...ここで高野くんにパスが来る!って思ったから」

先生のポジションってポイントガードだったんですか?」

「ううん、シューティングガード。只管ボールをリングに入れるマシンだったからねー...どこに走ればボールがもらえるか、いつも考えて観察してたもん」

そう言うと「へぇ」と感心したように私に目を向ける仙道くん。

「何?」

「いや。監督として、素質どうこうってのは俺はコメントできないけど、でも、コーチには向いてるかもしれないですね。何か、実践的なんだなーって」

「言ってることが良くわかんないけど。私だったらこの場面でどう動くかってのを考えて今日は指示してたんだけど」

だから、迷ったときに流れが向こうに行っちゃったんだよなー。交代のタイミングが掴めない...

仙道くんも、「たしかに、あのタイミングで交代すべきでしたね」って。迷った分、持って行かれたって。

「はぁ...」と溜息を吐けば、

「まあ、誰にでも最初はありますよ。これからですよ、先生の名監督の道も」

そう言って微笑む。

私、7つも年下の子に励まされてるよ...










桜風
07.7.24


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