風と雲/きみと私 13





翌日、田岡先生に聞かれる。

「結果は?」

「1ゴール差で負けました」

「はぁ...」と溜息を吐かれる。

すみません、せっかく勝って勢いをつけたかったでしょうに...

「正直、もっと差がついて負けるだろうと思っていた。選手の力の差ではなく、監督の力の差で」

そう言われた。

ん?

「本当に、は意外なこと多いな」

そう言って笑う。

「そう、でしょうか?勝てたかもしれない試合を落としちゃったんですよ」

「実を言うとには監督経験がないから、そんなに期待して無かったのが本音だ。大健闘だよ」

「仙道くんのお陰ですけどね...」

そう言うと「そうか」と田岡先生は苦笑した。


試合のビデオを渡した。

皆が外周に出ている間に田岡先生は見ておこうと思ったらしい。


皆が戻ってきても先生が来ないから休憩にしておいた。

先生が体育館に戻ってくる。

。お前はポイントガードだったか?」

「いいえ。シューティングガードです」

「そうだったか...そう、だったな...」

会話はそれで終了し、練習が再開された。

何で皆私をポイントガードだって思うのさ?


練習が終わって、田岡先生に言われた。

、今度からベンチに入るか?」

「はい。私もお願いしようと思っていたんです。やっぱり間近で見て勉強がしたいです」

そう言うと先生はしっかり頷いた。

何度か練習試合を組んだ。そのたびに田岡先生の隣に座り、解説を受けながら先生の指導を目の当たりにする。

家に帰ってビデオをチェックして、後日部員たちと反省会。


「先生は選手も私も指導するって大変ですよね」

他人事のようにそう思ってしまう。

「なぁに。コレが指導者としての醍醐味だ。上達していく生徒をたくさん見ることが出来るのだからな。にも分かる日が来るさ」

そう言われた。

紅白戦をするときには、田岡先生と私がそれぞれ監督として試合の流れを読んでいき、指示をする。

ハンデなのか、仙道くんは必ず私が監督を務めるチームに入っていた。

「ごめんね。負けてばっかりのチームで」

思わず仙道くんに謝る。

「いや。楽しいですよ。最近は監督も時々焦ってますしね」

「そうかなー?」

「そうです。だから、思うとおりに采配を振るってください」

仙道くんにそう言われたら、何となくそうじゃないかなって錯覚を引き起こす。

「ありがとう。頼りにしてるわ」

「たくさん頼ってください。俺、頑張りますよ」

そう言って仙道くんが楽しそうに笑った。



選抜の予選が近づいたある日。

一人でゆっくり帰る。

今日は、何となく徒歩の気分。

空を見上げたら満月だった。

さん」

振り返れば、仙道くん。

「学校帰りですよー」

そう言って注意する。でも、仙道くんは笑顔を浮かべるだけで、何の反応も示さない。

ま、いっか。

サア、と風が走り抜ける。

少し弱くなったな、と思ったら仙道くんが風上に移動してくれていた。

「ありがと」

「どういたしまして」

仙道くんが微笑む。

「仙道くんは、風だね」

昔言った言葉をもう一度言う。

「じゃあ、さんは『くも』になってください」

優しく微笑んだ仙道くんがそう言った。

「クモ?8本足の?」

「じゃ、なくて。あれ」

空を指さす。月の光に照らされた雲が走っていた。それは風が強い証拠。

「ああ、『雲』ね。何で?」

「風はそれだけだったら見えません。でも、雲があれば、風の姿が見えるような気がしませんか?
逆を言えば、雲がないと、風は見えません。風には雲が必要なんです」

そんなことを言われた。

「でも、強い風に吹かれると雲は消えちゃうでしょう?」

そう言ってみた。

「大丈夫です。俺は、そよ風ですから」

嵐のような闘争心を持っているクセにそんなことを言う。

それを言ってみると

「大丈夫。さんを消したりしません」

そう言ってにこりと微笑む。


全く、飄々としている仙道くんは先が読めないし掴めない。

だから、私は彼を風に喩える。

でも、風は雲を捉えることが出来るようだ。捉えられた雲は、風に運ばれてずっと一緒に居る。

ただ、その雲が素直なら共に流れるけど、そうでない場合は、風も大変そうだ。

そう。例えば、今の私と仙道くんのように。

「...頑固な雲を相手にすると、風も大変でしょう?」

そう言うと

「いや。そんなことはないですよ。風はどこまでも好きなように吹くことが出来ますから、雲が動くまで風は吹き続けます。雲と一緒に行きたいから、風はずっとその側にいます」

仙道くんのまっすぐなその言葉が、少しだけ怖いと思うときがある。

「疲れちゃうよ。別の雲、探しちゃいなさい」

「イヤです。俺は意外と持久力のあるそよ風なので、大丈夫です」

そう言ってニコッと笑う。そして、

さん。バスケは、好きですか?」

以前と同じ事を聞く。

「好きよ。たぶん、これはずっと前から変わってなかったんだと思うわ」

私の答えは、そのときのものとは変わっていた。

それを聞いた仙道くんは嬉しそうに笑った。











桜風
07.7.26


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