| 翌日、田岡先生に聞かれる。 「結果は?」 「1ゴール差で負けました」 「はぁ...」と溜息を吐かれる。 すみません、せっかく勝って勢いをつけたかったでしょうに... 「正直、もっと差がついて負けるだろうと思っていた。選手の力の差ではなく、監督の力の差で」 そう言われた。 ん? 「本当に、は意外なこと多いな」 そう言って笑う。 「そう、でしょうか?勝てたかもしれない試合を落としちゃったんですよ」 「実を言うとには監督経験がないから、そんなに期待して無かったのが本音だ。大健闘だよ」 「仙道くんのお陰ですけどね...」 そう言うと「そうか」と田岡先生は苦笑した。 試合のビデオを渡した。 皆が外周に出ている間に田岡先生は見ておこうと思ったらしい。 皆が戻ってきても先生が来ないから休憩にしておいた。 先生が体育館に戻ってくる。 「。お前はポイントガードだったか?」 「いいえ。シューティングガードです」 「そうだったか...そう、だったな...」 会話はそれで終了し、練習が再開された。 何で皆私をポイントガードだって思うのさ? 練習が終わって、田岡先生に言われた。 「、今度からベンチに入るか?」 「はい。私もお願いしようと思っていたんです。やっぱり間近で見て勉強がしたいです」 そう言うと先生はしっかり頷いた。 何度か練習試合を組んだ。そのたびに田岡先生の隣に座り、解説を受けながら先生の指導を目の当たりにする。 家に帰ってビデオをチェックして、後日部員たちと反省会。 「先生は選手も私も指導するって大変ですよね」 他人事のようにそう思ってしまう。 「なぁに。コレが指導者としての醍醐味だ。上達していく生徒をたくさん見ることが出来るのだからな。にも分かる日が来るさ」 そう言われた。 紅白戦をするときには、田岡先生と私がそれぞれ監督として試合の流れを読んでいき、指示をする。 ハンデなのか、仙道くんは必ず私が監督を務めるチームに入っていた。 「ごめんね。負けてばっかりのチームで」 思わず仙道くんに謝る。 「いや。楽しいですよ。最近は監督も時々焦ってますしね」 「そうかなー?」 「そうです。だから、思うとおりに采配を振るってください」 仙道くんにそう言われたら、何となくそうじゃないかなって錯覚を引き起こす。 「ありがとう。頼りにしてるわ」 「たくさん頼ってください。俺、頑張りますよ」 そう言って仙道くんが楽しそうに笑った。 選抜の予選が近づいたある日。 一人でゆっくり帰る。 今日は、何となく徒歩の気分。 空を見上げたら満月だった。 「さん」 振り返れば、仙道くん。 「学校帰りですよー」 そう言って注意する。でも、仙道くんは笑顔を浮かべるだけで、何の反応も示さない。 ま、いっか。 サア、と風が走り抜ける。 少し弱くなったな、と思ったら仙道くんが風上に移動してくれていた。 「ありがと」 「どういたしまして」 仙道くんが微笑む。 「仙道くんは、風だね」 昔言った言葉をもう一度言う。 「じゃあ、さんは『くも』になってください」 優しく微笑んだ仙道くんがそう言った。 「クモ?8本足の?」 「じゃ、なくて。あれ」 空を指さす。月の光に照らされた雲が走っていた。それは風が強い証拠。 「ああ、『雲』ね。何で?」 「風はそれだけだったら見えません。でも、雲があれば、風の姿が見えるような気がしませんか? 逆を言えば、雲がないと、風は見えません。風には雲が必要なんです」 そんなことを言われた。 「でも、強い風に吹かれると雲は消えちゃうでしょう?」 そう言ってみた。 「大丈夫です。俺は、そよ風ですから」 嵐のような闘争心を持っているクセにそんなことを言う。 それを言ってみると 「大丈夫。さんを消したりしません」 そう言ってにこりと微笑む。 全く、飄々としている仙道くんは先が読めないし掴めない。 だから、私は彼を風に喩える。 でも、風は雲を捉えることが出来るようだ。捉えられた雲は、風に運ばれてずっと一緒に居る。 ただ、その雲が素直なら共に流れるけど、そうでない場合は、風も大変そうだ。 そう。例えば、今の私と仙道くんのように。 「...頑固な雲を相手にすると、風も大変でしょう?」 そう言うと 「いや。そんなことはないですよ。風はどこまでも好きなように吹くことが出来ますから、雲が動くまで風は吹き続けます。雲と一緒に行きたいから、風はずっとその側にいます」 仙道くんのまっすぐなその言葉が、少しだけ怖いと思うときがある。 「疲れちゃうよ。別の雲、探しちゃいなさい」 「イヤです。俺は意外と持久力のあるそよ風なので、大丈夫です」 そう言ってニコッと笑う。そして、 「さん。バスケは、好きですか?」 以前と同じ事を聞く。 「好きよ。たぶん、これはずっと前から変わってなかったんだと思うわ」 私の答えは、そのときのものとは変わっていた。 それを聞いた仙道くんは嬉しそうに笑った。 |
桜風
07.7.26
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