想いは風に乗せて 4






の2人ともアップが済んで向き合う。

、お前に2本のハンデをやるよ」

不意にがそう言ってきた。

はきょとん、とした後に不敵に笑い、

「要らない。寧ろ、私はに3本のハンデをあげるわ。ありがたく取っておきなさい」

そう言う。

「そんなこと言って良いのかよ?」

「いいわよ。私、勝つもん」

自信満々にがそう言う。

「じゃあ、確認だ。俺が勝ったら、お前は顧問を辞める。あと、3本貰うけど、それを言い訳なんかにすんなよ」

「言い訳なんてしないって。だって私が勝つもん。で、私が勝ったら、二度とこのバスケ部に口出ししないで」

お互いの条件を確認して、が先攻になることを決めた。


に3本ハンデをあげたので、が4本連続でフリースローをした。

4本ともそれはリングの中に吸い込まれていく。

部員たちは不思議と全く心配にならない。

周囲の仲間を見ても、の実力をあまり知らない1年はともかく、2・3年は自分と同じ目をしていた。

「ねえ、何で皆安心して見てるの?」

が側にいる仙道に聞いた。

先生への信頼ですよ。先生は自分の言ったことを曲げません。そして、フリースローでは負けません」

仙道の言葉に、は「昔から変わってないって事ね」と嬉しそうに呟いた。

そして、のフリースロー。

ボールはリングの上で遊んで、何とかその輪の中に落ちた。


結果としては、が10本成功したのに対しては7本。がくれたハンデがなければもっと悲惨な結果になっていたかもしれない。

「さあ、約束よ。出て行って」

「ふ、ふざけんな!!」

の言葉にが激昂する。

「ありえないだろ!お前、高2でバスケ辞めたじゃねぇか。何でそんなヤツが...」

「馬鹿ね、

が困ったように笑う。

は中学のときからずっとそのリングに恋をしていたのよ。直向に、一途に。嫌われたくなくて、必死にシュート練習に明け暮れてたわ。それこそ、アンタが色んな女の子と一緒に遊んでるときも、はずっとリングにボールを運んでたわ。
ねえ、。アンタどれだけ練習した?才能だけでバスケやってて、結局その才能で越えられない壁にぶつかって逃げたんでしょう?も一度は手放した。でも、この子は結局戻ってきたのよ、此処に。気まぐれに今来てみたアンタと違ってね」

は何とも情けない顔でを見る。

には悪いけど、高校のとき。あなたと付き合ってたときも私が見てたのはずっとこのリングだけだった。を好きだと思ったこと、たぶん一度もないわ。
振られたときは確かにショックだったけど、でも、それはバスケが出来なくなってショックだったんだと思う。バスケさえ出来てたら、私はあなたと別れても全然気にならなかったわ。たぶん、ね」

も困ったように笑っていた。

ああ、そうだ。あの時ショックだったのは、バスケが出来なくなった事実を『別れ』という形で突きつけられたからだ。

昔を思い出して、そして、今自分が立っている場所を改めて実感した。自分は戻ってきたのだ。1年前、いや、3年前に。

が指導者に向いてない?じゃあ、今ここにいる自分の後輩たちの目を見てみなさい。は、これだけの後輩に信頼されてこのコートに立ってたのよ。諦めな。自分で探しなよ、バスケが出来る場所をさ」

の言葉にが項垂れる。

、良いこと教えてあげよう。私が唯一フリースローで負けたことのある子が、この仙道くん。彼も1年の時からエースで、今はキャプテン。そして、私が唯一陵南のエースって認める子よ」

誇らしげに、仙道の隣に立ってはそう言う。

仙道は一瞬目を丸くしたけど、すぐにの言葉にくすぐったそうに笑った。

もそんな仙道を見上げて目を細める。


はゆっくりと顔を上げた。

周りの後輩たちを見渡して溜息を吐く。確かに、この体育館の中には自分の居場所なんてものは全くない。

。悪かったな、負け犬とか言って」

「ううん、いいよ。事実、私もそう思ってるし」

「仙道、だっけ?」

突然に名前を呼ばれて仙道は面を食らった顔をする。

「悪かったな、お前も。大切な顧問を馬鹿にして」

「ええ、凄くムカつきました」

笑顔で仙道がそう言った。

は苦笑してもう一度「悪かった」と謝る。

「じゃあ」、と言ってジャケットを拾って体育館の出口へと向かう。

!」

が不意に声を掛けた。

は無言で振り返る。

「今年もウチはシードだからIH予選は5日目からの試合だけど。試合の応援くらいならしてもいいから。許してあげよう」

そう言って笑っている。

「気が向いたらなー。俺も意外と忙しいから」

そう言っては笑いながら手を振って出て行った。

は溜息を吐いて頭を掻く。

そして、仙道を見上げて、

「さ、校庭10周。いってらっしゃーい」

と笑顔で手を振った。

忘れてたらいいなーと思いながら立っていた仙道だが、諦めて体育館の外へと向かう。

一度振り返って、

先生は膝のアイシング!」

そう指差して出て行った。

「はーい」と返事をして左足を少し引きずりながら体育館の隅へと向かった。










桜風
07.10.3


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