想いは風に乗せて 6





5月のうららかな日差しが降り注ぐ午後。

は久しぶりの休日を満喫していた。

部活も鬼のように練習があるが、時々体を休ませるために、本当に時々練習のない日がある。

今日はそんな日で、も久しぶりに丸1日自分のために時間を費やすことが出来る。

建物を出て時計を見た。

時間的に家に帰るのも早い気もするけど、でも用事は済んでしまった...


悩んでいると影が出来る。

見上げると知らない人。

何だろう?

そう思っていると、意外なことにナンパだった。

バスケをしていたは女性の中では背が高いほうだ。しかも、そんなことを気にせずにヒールのある靴だって普通に履く。

今日だってそんな靴だ。

背が高いと敬遠されやすいから便利だなーと思っていたのだが。

さて、どうしたもんかと悩んだ。

ナンパなんてされたことがないから、あしらい方が分からない。

適当に言って放っておいていっか。

そう思って口を開いたところで、突然肩を抱かれて

「悪い、遅れた」

という声が頭上から振ってくる。

見上げれば予想通り、ほぼ毎日顔を見ている教え子で、陵南高校バスケ部エースでキャプテンの仙道彰。


流石に仙道ほど背が高い人間を目の前にすると意外にあっさり引いていく。

何だ?

は首を傾げた。

「あれ?もしかしてナンパされて嬉しかったとか?」

仙道がそう聞く。

「んなワケないでしょ」

は仙道がまだ肩に回している手から逃れる。

「何やってんの、こんな所で」

がそう言うと「息抜きですよ」と仙道が答える。

半眼になって仙道を見る。

「赤点取ったら承知しないからね。こういうときにこそ勉強しなさいよ」

「大丈夫ですよ。さんの英語だけはかなりの高得点を期待してください」

「他の教科も、それくらいの自信はあるんでしょうね?」

の問いに仙道は目を逸らした。

「家に帰って勉強なさい」

溜息混じりにがそう言う。

「だから、息抜きに出てるんですよ」

そう言いながらが手にしている紙袋をひょいと持ち上げた。

「ああ、コラ」

「重いですね。何が...何ですか、この大量の本」

そう言いながら紙袋の中の本を1冊取り出す。

それはある種のHow to本だった。この職業に就くには、といったそういう入門書である。

「転職する予定ですか?」

「まさか!折角就職したのに...じゃ、なくて。世の中、色んな職業があるでしょう?勉強しておこうって思って」

そう言って仙道が手にした本を取り上げる。

仙道が持っている紙袋を返してもらおうと無言で手を出せばその手は仙道の空いている方の手で塞がれる。つまりは、手を握られた。

「そうじゃなくて。返して」

仙道の手を軽く払ってそう言ったが

「いいですよ、重いから俺が持ちます」

全く堪える様子はなく、仙道は笑顔を浮かべての持っている本を袋に仕舞った。

相変わらず強引に話を進める。

は溜息を吐いて諦めた。その方が早く終わる。

「駅まででいいからね」

そう言うと、仙道はにこりと笑って「はーい」と返事をした。

「ホント、返事だけは良いよね。仙道くんって」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないって」

いつも飄々としている教え子を見上げてもう一度溜息を吐いた。










桜風
07.10.17


ブラウザバックでお戻りください