想いは風に乗せて 7





駅までの道のりをまっすぐ歩いていると、不意に仙道が

「あ、クレープ屋さんだ」

と呟いた。

「ホント?」

は仙道を見上げて視線の先を確認し、自分もピョンピョン飛んでみたが、よく見えない。

そして、ちょっと離れたところに積まれているブロックを見つけてそちらへと向かう。

仙道もについて歩く。

「危ないですよ、さん」

仙道にそう言われても「大丈夫」と答えながらは少しバランスの悪いブロックの上に立った。

仕方ないなーといった感じに仙道はの腕を掴んで支える。

「ああ、これが仙道くんの視線の高さなんだ」

そう言ったの声が本当に近くて、仙道の鼓動が少しだけ早くなった。

顔を向ければ本当にの顔が真正面にある。

普段は座っても立っても大抵同じ目線になることはなく、こんなにまっすぐ正面からの顔を見た事がない。

仙道の視線に気付くことなくは先ほど仙道の見ていた方を見る。

「あ、ホントだ。うわ、仙道くんの背の高さって便利だね」

そう言って振り返れば仙道の顔が目の前にあって少し焦った。

慌ててブロックから降りようとして足を滑らせる。

バランスを崩したを片手で支えた仙道は結果的にの腰を抱いて抱き寄せる形になった。

「あ、ありがとう」

「いえ...」

パッと離れて二人はポソポソと会話をした。


「あー、えーと。クレープ、食べる?」

何か会話をしないとこの沈黙は耐えられない、とは口を開いた。

「あ、はい」

仙道もまだ動揺しているようで、返事がぎこちない。

しかし、少し歩いているうちにお互いいつもの調子を取り戻してきた。

「で、仙道くんは何食べたい?それを持ってくれてるお駄賃で奢ってあげるよ」

「いいんですか?先生が生徒に奢るなんて」

「じゃあ、自分で買う?」

「いいえ、ご馳走になります」

「初めから素直にそう言いなさい」

そう言ってが笑った。

「そうですねー。チョコのやつがいいです」

仙道の答えに

「へー、仙道くんはチョコが好きなんだ?」

は意外そうにそう聞く。

「ええ、結構好きですね」

「意外だな。甘いのダメとか言いそうだと思ってた」

「そうですか?だから、来年のバレンタイン、ちゃんと待ってますから。バレンタインじゃなくても年中受付中です」

そう言って仙道が笑う。

「あら〜?仙道くんは毎年沢山チョコを貰ってるんでしょ?今更1つ増えたところで変わらないんじゃなくて?」

がイタズラっぽく笑いながらそう言うと

「いやいや逆ですよ。一番欲しいそれがあれば、寧ろ他のチョコが要らないんです」

「不思議ねー。同じチョコなのに」

「今年は、その本当に欲しかったチョコが貰えなかったんで。来年こそは、って思ってるんですよ」

そう言っての目をじっと見る。

「そう。仙道くんも意外と苦労してるのね」

わざとらしくしみじみと言うに仙道は

「ええ。俺は苦労人なんで、ぜひともさんが労わってください」

そう言って笑った。


そんな会話をしていると例のクレープ屋の前に着いた。

「チョコのって、どれがいいの?」

「バナナ、かな?」

「チョコバナナ?じゃあ、私は。うーん...」

が悩み始める。

「何を悩んでるんですか?」

「この苺の生クリームの捨てがたいけど、仙道くんのチョコバナナも食べたいしなーって」

「じゃあ、半分こしましょうよ。俺も苺の食べたいし」

何でもないことのように仙道がそう言って店員に注文をする。

まあ、いっか。

もそう思って支払いを済ませた。


少し離れたところのベンチに座って先ほど購入したクレープを口に含む。

「幸せそうな顔をして食べますね...」

まじまじとの顔を見ながら仙道がそう呟いた。

「ちょっと、見ないで。恥ずかしいじゃない」

「えー、可愛いですよ」

「ダーメ。もう!」

そう言っては仙道に背を向けた。

自分の言葉が裏目に出た仙道は、しまったなと肩を竦めた。

そして、クレープを半分ほど食べて「さん」と言いながら肩をちょんちょんとつつく。

「何?」

「半分食べました」

「え、早い!ちょっと待って」

そう言ってが慌てるから

「ああ、ゆっくり食べてくださいよ。持っておきますから」

そう言ってにこりと笑う。

「ごめんね、遅くて」

「普通でしょ」

そう言って仙道は今まで自分が運んでいた袋の中を改めて見る。

「見ていいですか?」

「面白い本はないよ。エッチなのとか」

が笑いながらそう言うが、その言葉を了解の意と解釈して「それは家にあるんでいいです」と言いながらさっきとはまた別の本を手に取った。

「あ。あるん、だ...へぇ」

は少し複雑な心境で呟いた。年頃の男の子ってこういう風にからかわれたら恥ずかしがるものとばかり思っていたのに...

今度仙道が手にした本は大学の学部等を説明した本だった。

「何ですか、コレ」

眉間に皺を寄せて仙道が聞く。

「進路指導するのに私知らないことが多いからさ。ちょっと勉強しとこうかなって」

そう言って「はい」と半分食べた生クリーム苺のクレープを渡す。

「ふーん」と言いながらの差し出したクレープを受け取り、パクパクと完食する。

食べ終わり、クレープの包みを丸めて近くにあったゴミ箱へと放った。

「ナイシュ!」

仙道の放ったそれはゴミ箱の中に納まり、は楽しそうにそう言う。

がクレープを食べている間、仙道はパラパラと本を捲る。

そして、他の本も色々見てみたが、全部そんな感じの内容のものだった。

「ナイシュ」

も食べ終わったクレープの包みを丸めてゴミ箱に放り、それが入ったので仙道もお返しにそう言った。

は嬉しそうに微笑んで、

「じゃ、帰りましょうかね」

そう言って立ち上がった。










桜風
07.10.24


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