想いは風に乗せて 8






駅まででいいと言ったが。

としては、電車に乗るまで、という意味だったのだが、どうせ降りる駅が同じなのだからと仙道はそのまま荷物を持って一緒に電車に乗る。


電車を降りて駅で

「じゃあ。荷物持ってくれてありがとう」

と言って仙道からそれを返してもらおうと手を伸ばすと

「ついでだから最後まで荷物持ちをしますよ」

と言って渡してもらえない。

困ったな、と思った。

先ほどから膝が痛くなってきている。ということは天気が崩れる。だから仙道は家に帰った方がいいと思ったのに。

しかし、駅の構内でお互いけん制しあっていても話が進展するはずがないため、は諦めた。


「仙道くんは天才だ」

帰りながらはそう呟く。

「え、何のですか?」

興味を持った仙道が聞くと

「マイペースの、天才」

という答えが返ってきた。

「そうですか?」

「そうよ。私も中学の頃から大概マイペースだってに言われてきたけど。その私が負けるんだもん。チャンピオンだわ」

そう言って苦笑する。

「...イヤ、ですか?」

心配そうに聞く仙道に

「もう慣れたから大丈夫よ」

は笑いながら答えた。


最初こそ戸惑ったが、最近は諦めとあしらいを使い分けることが出来るようになった。

自分も成長したなーと思っていると空からポツポツと雨粒が落ちてきて、間もなく大降りになる。

「走れますか、さん!」

仙道に言われて頷いた。

の家が分からない仙道はの後をついて走る。

着いた先は一人暮し用のマンションだった。

「あれ?さんってご家族と住んでるんじゃないんですか?」

「先月から出たんだ。この年で親の脛齧ってるのも、ね。だから、最近は車じゃないんだよ」

そう笑いながら言ってドアの鍵を挿す。

「ちょっとそこで待ってて。タオル取ってくる」

はそう言って部屋の中へと向かった。すぐにタオルを取ってきて仙道に渡す。

「上がって」

にそう促されて躊躇いがちにの部屋に足を踏み入れた。

「あー。シャワー浴びなさい。体が冷えると大変だ」

そう言いながらは仙道をバスルームに案内する。

そして、今気が付いた。

「え、仙道くん。何でこんなに本が濡れてないの!?」

バスルームに入った仙道に思わず声を掛ける。

カチャリとドアを開けて仙道は顔だけ出す。

「ああ、だって。さんの大切な本でしょ?なるべく濡らさないようにって思って」

そうあっさり言われた。

仙道は本が濡れないようにずっと抱えて走っていたのだ。その分、自分が濡れるというのに、それを気にせずに。

は「まったくもう!」と言って少し泣きそうになった。仙道は本当に優しい子だと思う。思わず自分が甘えてしまいそうになるほどに。

「ありがとう」

仙道にそう言うと、仙道は「どういたしまして」と満足そうに微笑んで首を引っ込めた。

は仙道が持っていてくれた本を袋から出して、今度はお湯を沸かす。

そういえば、仙道は服が濡れたのだから替えが要るのではないだろうか?

そう思って自分のクローゼットの中を漁ってみたが、流石に仙道サイズのものはない。

うん、当然だ。は腕組みをして頷いた。

「ねえ、仙道くん」

ドア越しに声を掛けてみる。

「はい?」

シャワーの水音に混じって仙道の声がする。

「服、随分濡れちゃったよね?」

「まあ、それなりに」

やはりそうか...


は少し考えてポン、と手を叩く。

「そういえば...」と言いながらクローゼットの中を再び漁る。

出てきたものはガウン。

これなら体の大きさも何とかカバーできる。

満足そうに頷いてはバスルームの中にいる仙道に声を掛ける。

「仙道くん」

「はい」

「此処、ガウン置いとくから。ジーパンとTシャツは着ないようにね」

そう声を掛けてバスルームから離れた。

「ガウン、って...」

仙道の呟きはには届かなかった。










桜風
07.10.31


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