想いは風に乗せて 10





がバスタオルで髪を拭きながら出てくると、仙道が必要以上に大人しい。

「何したの?」

自分の勘に従って聞いてみた。

ビクンと仙道の肩が揺れる。

は溜息を吐いた。膝をついて仙道と目を合わせて

「箪笥の中、見たとか?」

と聞く。

仙道は無言で首を横に振る。

「写真を...あのコルクボードの」

そう言って指差した。

ああ、確かに。自分が貼っていた位置ではないなと納得して仙道を小突く。

「部屋の中のもの弄っちゃダメって言ったでしょ」

「すみません...」

しゅんとなった仙道に苦笑して立ち上がる。

「あ、」と仙道の口から声が漏れる。

「何?」

「それ...」

と言って指さしたのは、いつも自分が隠している傷跡だった。シャワーを浴びた後だからいつものクセで楽にハーフパンツを穿いてしまった。

「ああ、うん。コレ。おっきいでしょ?目立つからスカートが穿けなくてね」

そう言って笑った。

自分からバスケット選手という道を奪ったその傷を指さして笑うはカッコイイな、と何となく思う。

「いいですよ」

仙道がそう言う。

「何が?」

「スカート、穿けない方が」

仙道の言葉の意味をは眉間に皺を寄せて考えるが、やはり分からない。

「なんで?」

「だって。お陰でさんのそのきれいな足を不貞な輩に見られることがないじゃないですか」

そう大真面目に言った。

その表情がおかしくては声を上げて笑い、

「で。その不貞な輩の中に仙道くんも入るんだよね?」

と言った。

「まさか!俺は紳士ですよ」

そんなことを大真面目に言う仙道にはまたしても声を上げて笑う。

「そっかー。うん、そうだね。荷物持ってくれたし、本が濡れないように守ってくれたもんね。確かに、紳士かも。で、コーヒー、紅茶、ジュースにポカリがあるけど、何がいい?あ、ココアも作れるよ」

改めてが聞いた。

「じゃあ、ポカリで」

仙道がそういい、「畏まりました」と恭しく礼をとっては冷蔵庫へと向かった。


手持ち無沙汰になった仙道は、テーブルの上の今日が購入した本を捲る。

「気になる本があるなら貸すよ」

グラスを持ってきたがそう言う。

仙道にポカリを渡してはドライヤーで仙道のジーパンを乾かし始める。

「や、いいです」

そう言って本を閉じて口元に運んだグラスを傾ける。

さんは、何で教師を目指したんですか?」

仙道に聞かれては手を止めて宙を見上げる。そして、そのまま首を傾げた。

「わっかんないのよね。バスケが出来なくなって普通に受験生になって何故かすぐに『教育学部に行かなくちゃ』って思ったのよ」

首を傾げて宙を見上げたままそう呟く。

「指導者になりたかったとか」

「ううん、全然。だって、ホラ。昔東京に居たとき仙道くんに『バスケは好きですか?』って聞かれたとき、『好きじゃない』って私答えたでしょ?」

「そうでしたね」

仙道は懐かしそうに頷く。

「だから、寧ろ最初は巻き込まれた感が強かったなー。教育実習に行くって田岡先生に話したらバスケ部の担当になって。ホラ、教育実習生も顧問を体験するでしょう?」

「はい」

「で、陵南に就職したらやっぱりバスケ部顧問になるように田岡先生が根回ししてくださってて。うーん、お陰というべきだろうね。田岡先生のお陰だなー、またバスケが好きになったのって」

独り言のようにそう答える。

「そうかー。じゃあ、仲人は田岡先生ですね?」

仙道がそういい、

「仲人って誰の?」

は凄く胡散臭いものを見るような目で仙道に聞いた。

「俺とさんの結婚式ですよ」

仙道は大真面目に返す。

は一度目を伏せて笑顔で顔を上げる。

「今すぐその格好のまま追い出して差し上げましょうか?」

そう言われて慌てて仙道は謝った。不本意だけど謝った。

それに対しては満足そうに微笑んで、「分かればよろしい」と言って頷いた。










桜風
07.11.14


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