| 決勝リーグが始まった。 決勝リーグで1勝をあげての2戦目。ベンチからもスタンドからもカウントダウンが聞こえ始める。 「5・4・3・2・1」 ブザーが鳴り、勝利を収めたのは陵南。2勝目を手にした。 1試合目には海南が勝利し、こちらも2勝目。 つまり、今年のインターハイは海南と陵南の2校に決定した瞬間だった。 ベンチの選手たちは抱き合ってインターハイ出場を喜び合っている。 田岡も強く拳を握り悲願のインターハイ出場を喜んだ。 そして、は俯き、左膝に触れた。 礼が終わってコートの選手たちが戻ってきた。 彼らを皆は笑顔で迎え入れる。 「さん」 頭上で声がした。とても優しく、頼りになるこのチームのエースの。 泣くまいと必死に涙を堪えながら立ち上がり顔を上げて 「おめでとう」 と言った。 仙道は笑顔のまま 「8年越しの、インターハイですよ」 と言う。 不意を突かれたその言葉に、は息を飲む。 大きく開けたの瞳から大粒の涙があふれ出る。 「なん、で。知ってんのよ」 顔を覆ってその場にしゃがむ。仙道も膝をついた。 「さんのことだから、ですよ」 「ウソくさ...」 涙声で笑いながらが呟く。 「ひどいなー」 仙道は苦笑いを浮かべての髪を梳いた。 部員たちは遠巻きに2人の様子を見守っていた。声を掛けられない... 「ところで、さん。約束、覚えてますよね?」 仙道の言葉には顔を上げる。 「先生と言いなさい」 一瞬ぐっと言葉に詰まった仙道だったが、すぐに笑顔になり 「...先生はいい女なんで、約束は守れますよね?」 そう言った。 一気に体中の血の気が引く。今の今まですっかり忘れてたけど、『全国大会出場』が条件だった。 つまり、この試合を以って仙道は条件を満たしたことになる。 「俺は1年越しです」 そう言ってにっこり微笑みながらトントンと自分の唇を人差し指で叩く。 「あ、えー...」 「じゃ、帰りましょうか」 先ほどまでぐちゃぐちゃになって泣いていたが突然大人しくなった。 仙道とのやり取りが聞こえなかった部員は不思議に思ったが、『君子危うきに近寄らず』の精神で誰も何も聞かない。 学校に戻って今日の反省会を行う。 が、 「コラ、仙道!聞いとるのかぁ!!」 心此処にあらずのキャプテンに皆は溜息を吐く。 片付けの方を手伝っていたが「すみません、遅くなりました」と言いながら部屋に入ってきた。 の入室に仙道はにこりと微笑みかける。 もう、どう反応していいのか分からないは半眼になって目を逸らした。 田岡の怒声が響く反省会と明日の試合のミーティングはそれから少しして終わった。 「今日はしっかり体を休めておけよ。明日も勝つんだからな」 田岡はそう言って部屋を出る。 部員たちもぞろぞろと部屋を後にした。 皆が部屋から出て行くのを確認して部屋を片付けているとガチャリとドアが開く。 「さん」 「先生」 「...先生」 仙道が戻ってきた。 それに他の部員も気付いていたが、心の中でに謝りながら誰も止めなかった。 「どうしたの?早く帰って休まないと。疲れてるでしょ?」 溜息混じりにがそう言う。 仙道は何も言わずに微笑んで立っているだけだった。 部屋の片づけを済ませて1度深く息を吐く。自分が言い出したことだ。仙道は条件を満たした。だったら、自分も応えるのが道理。 仙道の立つドアの前まで行く。 「...いいんですね?」 仙道が笑顔のまま確認する。 「い、いいわよ?」 仙道は右手での顎を固定し、上を向かせる。親指での唇をゆっくりなぞった。 目をギュッと瞑っては待っていたが、中々それが来ない。 うっすら右目を開けると至近距離に仙道の顔があり、額に唇の感触がある。 てっきり唇に来るものと思っていたそれが額に落とされる。は思わず「へ?」と声が漏れた。 仙道が小さく噴出し、クツクツと肩を震わせながら声を殺して仙道は笑っている。 そんな仙道を呆然と眺めながらは額をさすった。 「先生、真っ赤だ」 「う、うるさい!!」 は仙道に背を向けた。頬を抑えて何とか熱を下げようとする。 「明日に、集中できなくなりそうだから」 ひとしきり笑った仙道がそう言ってを見る。 恐る恐る振り返ったが見たのは、闘志を孕んだ瞳をして不敵に微笑んでいる仙道だった。 男の顔だった。 仙道は時々そんな表情をする。それを目にするたびには戸惑い、そして自分の鼓動が早くなるのを感じていた。 そして、今も。うるさいくらいに自分の心臓の鼓動が聞こえる。 思わず着ているシャツの胸の辺りをぎゅっと掴む。 仙道はフッと笑って手を伸ばす。 ビクン、との肩が震え固まる。そのまま仙道の手はの髪を梳き 「続きは、また明日」 の耳元でそう囁いて部屋を出て行った。 「つ、続きって何...?」 は両手で自分の口を覆って仙道の出て行ったドアを眺めながら呆然と呟いた。 |
桜風
07.12.9
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