想いは風に乗せて 16




今日、試合に出た選手たちはそのまま帰っても良いという話になっていたのだが、意外なことに3年は皆学校に戻ってきていた。


が道具の片付け等を手伝って、荷物を置いている職員室へと向かう途中、その3年たちを目にした。

「あ、皆お疲れ様」

に声を掛けられて振り返る。

「お疲れ様です」

口々に返した。

「今日こそ、ゆっくり体を休めなさいね」

そう話していたのに、

「おお、丁度いい。お前らも付き合え」

上機嫌の田岡に捕まる。

「先生、皆疲れてるんですよ」

「食事をするだけだ。どうだ?」

「先生...」

抗議の念を込めてが言うが、聞く気が無い。

そして、生徒たちもテンションが上がっていたため、何故かこの言葉に頷いた。

校門へ行くとが居た。

「あれ?この子たちもですか?」

が聞くと

「いいだろう。食事するくらい。それに、今日行く店は私の馴染みの店だしな」

と笑って言う。

もいいの?」

に言われて「は?」と聞き返す。

も勿論来るだろう。というか、来い。監督命令だ」

「横暴ですね」

と笑いながらは頷いた。


ぞろぞろと向かった先は、何度か行ったことのあるお店。ああ、馴染みの店だな、ホント。

がらりとドアを開けて店内に入る。

「ちは!」「お久しぶりです!!」

今の3年たちが頭を下げながら店内に入る。

魚住の店だった。

「どうだ、魚住。最近は」

「はい。まだまだですけど。おう、お前ら。優勝したんだってな。仙道、よくやった」

「いえ。みんなの力ですよ」

先生もお久しぶりです」

「そうだね。最近全然釣りする時間が無いからねー。外で飲むことないし」

の言葉に、「今日は好きなだけ飲んでってください」と魚住が言った。


さん」

の周囲は他の部員で固められているし、隣は田岡が座っている。

席が空いたの隣に座って仙道が声を掛けた。

「んー?ああ、言ってないね。おめでとう。最後の1プレイには鳥肌が立ったよ」

「ありがとうございます」

「あと、約束守ってくれてありがとう」

小声でそう言う。仙道は微笑んで頷いた。

「で?何??」

「あ。あの...さんって俺たちが優勝したの、そんなに嬉しくないんですかね?」

「は?」

が眉間に皺を寄せて聞き返す。

「や、だって。試合に勝ったときも、今も。そんな感じが無いっていうか...」

心配そうに言う仙道には噴出した。

「ああ、そうか。そうだね。って昔からああなの。全中で優勝したときも淡々としてて。ホテルに帰ったらいきなりテンションが上がって。じわじわ来るタイプなのかもね。昨日は夜中になって突然『全国決めたよ!』ってハイテンションの電話をくれたし。だから、喜んでるよ。心配ないって」

「そう、だったんですか...」


そんな話をして1時間もしないうちにのけたたましい笑い声が聞こえてきた。

「え、これですか?」

あまりにも愉快そうなの笑い声に仙道はに確認する。

「ううん、コレは別口」

そう言ってにやりと笑う。

すくっとが立ち上がって右手を上げる。

「いちばん!。脱ぎます!!」

そう言ってブラウスのボタンに手を掛けた。

「ステキよ、!」

「面白いぞ、!!」

を煽るが、

「え、ちょっ!さん、ダメだって!!」

慌てて仙道が駆け寄りの腕を抑える。

「えー、やぁだー」

「『やぁだー』じゃないですよ。ダメです」

楽しげにその様子を見守っていた

「仙道くん。もう連れて帰っちゃって。家、知ってるでしょ?」

「え、さんが連れて帰った方が...」

「ダメダメ。の家ってあたしの職場が近いの。見つかったらアウトでしょ?それに、折角のタダ飯だし。思う存分先生に奢っていただくのよ。というワケでをヨロシク〜!」

そう言ってヒラヒラと手を振る。


仕方なく仙道はを送って帰ることにした。

「大丈夫か?」

店先まで出てきた魚住に聞かれて

「たぶん...すみません、慌しくて」

と苦笑いを浮かべながら答える。

「いや。気をつけて帰れよ。また来い。先生も、またいらしてください」

そう言って魚住は店内に戻った。

さん、負ぶってあげるから、乗って」

のバッグを持って屈んで背を向ける。フラフラになってるを背負って帰ることにしたのだ。

鞄を肩に掛けていて少し難しいが、まあ、大丈夫だろう。

仙道に言われたとおりには仙道の背に乗った。

「ふぁー、高い!」

立ち上がった仙道の背中で楽しそうにはしゃぐに苦笑を漏らす。ジタバタと暴れたかと思うとぎゅうとくっついてきた。

「何ですか?」

少し首を巡らせて仙道が聞く。

「ねえ、仙道くん」

耳元で聞こえるの声がくすぐったい。

「はい」

「昨日も思ったけど、今日も凄く思ったの」

「...何をですか?」

「生きてて良かったって。辛いときもあったけど、でも良かった...」

仙道は黙ってゆっくり足を進める。

「ねえ、仙道くん」

「はい」

「ありがとう。言い尽くせないくらい、感謝してる。貴方に会えて良かった。ごめんね、たくさん頼って。いっぱい迷惑を掛けて。甘えてばかりだよね」

の言葉に驚いて一瞬足を止めたが、また歩き出す。

「まだまだ足りませんよ。もっと頼ってください。迷惑なことなんてひとつもありません。甘えられるのもさんなら大歓迎です」

は仙道の言葉にふふふ、と甘えたように笑う。

「カッコイイこと言うねぇ」

さんにしか言いませんけどね」

「ナマイキ」

からかうようにが言った。

さん」

「なぁに?」

「好きです」

「...知ってる」

「なら、いいです」

仙道はそう答え、は仙道に体重を預ける。


のマンションの入り口に着いたところで「もういいよ。ありがとう」と言ってが降りようとした。

「部屋の前まで送ります」

「じゃあ、せめて降ろして」

そう言われて仙道は屈んでを降ろした。

「ありがとう。疲れてるのにね」

「これくらい、何ともないですよ」

そのままの部屋の前までお互い何も話さずに歩いた。

「あがってく?」

の言葉に仙道は困った顔をして首を振った。

「そう...」

仙道は少し寂しそうに俯いたの顎を固定して顔を上げさせる。

優しく触れるだけのキスをして

「好きです、さん」

と言う。まっすぐ、の瞳を見て。

「知ってる」

動揺したのか、は少し瞳が揺れて先ほどと同じ言葉を口にした。

「じゃあ、また明日」

「うん、ありがとう。また明日ね。ゆっくり休んで」

そう言って自分の腕時計を見る。

「って言ってももうこんな時間か...」

と呟いた。

「おやすみなさい」と言って仙道はの部屋から離れた。

も部屋の中に入る。

窓から外を見ていると帰っていく仙道の後姿が見えた。

はその姿が見えなくなるまでずっと窓の外を眺めていた。










桜風
07.12.16


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