想いは風に乗せて 17





最近のは忙しそうだ。

まあ、3年の担任で受験期の真っ只中なのだから当然といえば当然かもしれない。

お陰で放課後も部活動に出る時間が極端に少ない。

まあ、田岡が居るからバスケ部的にそんなに困っていないのだが、ひとり困っている人物が居た。

大学もバスケの推薦を受けることにした仙道は既に進路が決まっており今の時期は非常に暇で、放課後になると体育館へ来ていた。

勿論、バスケをしに、というよりに会いに、なのだが...


2月に入れば3年は自由登校になっている。

だから、用事も無いのに学校に行くのは少々憚れる。

よって仙道は放課後、が居る可能性の高いバスケ部に顔を出していたのに、中々会えない。

かといって駄々をこねるわけにもいかないので、大人しくの居ない体育館でバスケをしているのだが

「こら、仙道!!」

何故か田岡に叱られる日々を送っていた。

もう引退したのだから、そんなに熱心に指導してくれなくても構わないのに...

少しだけそう思っていた。


練習が終わって何となく教室へ向かった。

次に教室に行くのは卒業式の前日。卒業式のリハーサルがあるため、3年は登校日となっている。

それでも、今日は何となく教室へと足が向かった。

既に時間が遅いため、校舎内のエアコンが切れていて空気が冷えている。

着ていたコートのポケットに手を突っ込んで廊下を歩いた。吐く息が白い。

教室のドアを開けると一瞬瞠目した後に仙道の頬が緩む。

思いがけない再会だ。

どれくらいぶりだろう、と指折り数えてみるが、途中でやめる。

静かに教室の中に入り、コートを脱いでそっとにかけてやる。

教卓の目の前の席に座って頬杖をついて、教卓について寝ているを見上げた。

「疲れた顔してるなー...」


暫く眺めているとの目がゆっくり開く。

「おはようございます、さん」

仙道の声に、寝ぼけ眼で「おはよう」と答えた。

そして、バッと体を起こす。

「あれ?!え??」

さん、疲れてるみたいですね。よく寝てたんで起こしませんでした」

「先生」

「はーい、先生」

この会話ももう少しで終わると思うとやはり少し寂しい。

『先生』と呼んでる間は一定の距離を置かれているようでいやだな、と思っていたが呼べなくなるもの何だか物足りなくなるんだと気付いた。


腕を前にして伸びをしたが自分にかけてあるコートに気付いた。

「あ、これって仙道くんの?」

「良いですよ、まだ羽織ってても」

「そうもいかないでしょ。仙道くんだって寒いんじゃない?」

「大丈夫です。それに、今先生が風邪を引いたら頼りにしている生徒たちが困ってしまいますよ」

仙道にそう言われて苦笑いを浮かべる。

「一緒にあたふたしてるだけなんだけどね」

「それだけでも、心強いんです」

「だといいけど」と言っては笑った。


「そういえば、仙道くんって結構部活に来てるんだって?」

「ええ、まあ」

「田岡先生が喜んでたよ。というか、もしかしたら現役のときより勤勉じゃない?」

そう言ってが笑う。

それを言われると辛いなぁ...

「どうですか、後輩たちの指導は」

に聞かれた。

「や。俺、まだ田岡監督に指導されている立場なんです」

という仙道の言葉には目を丸くして、噴出した。

「ああ、だから田岡先生も嬉しいんだね。そっかー。孝行息子だ」

笑いながら言うに「どうも」と肩を竦めながら仙道は呟いた。

先生は、最近顔を出しませんね」

仙道がそう言う。は困ったような顔で笑う。

「放課後をねらって皆が来るからね。仕方ないよ」

「俺も、先生に会いに来てるのにな」

仙道が言うとは面食らった顔をして

「それは、残念ね」

と言って苦笑いを浮かべる。

「ああ、そうだ。仙道くん」

そう言いながら持っていたバッグをあさっている。

「はい」

仙道は立ち上がりの側に立った。

「あった」と呟いてが顔を上げる。

「1日早いけどあげましょう」

そう言って取り出したものは箱に入った市販のアーモンドチョコレートだった。

手渡されて呆然とそれを見つめている仙道に不安を覚えたのか

「アーモンド、ダメだった?」

と聞いてきた。

「いえ、好きです。え、何で持ってたんですか?」

「疲れた時には甘いものでしょ?今日のお昼にコンビニに行って買ってきてたの。まあ、そのタイミングで仙道くんに会ったので、差し上げましょうかね、と。手作りじゃないけど」

そう言って笑う。

「もらって良いんですか?」

「今、そう言ったと思うけど?」

「大切に取っておきます!」

「...賞味期限があるから。それまでには食べた方が良いと思うわ」

苦笑をした。

「そっか」と呟き、早速包装してあるビニールを剥ぐ。

箱からひとつ取り出して口の中に入れた。

仙道は口を動かしながらカリカリと小気味のよい音を立てる。

「美味しい?」

「はい。ホントに疲れてるときにはこういう甘いものですよね」

「去年みたいにたくさんもらえないもんね、今年は」

がからかうように言うと

「これを貰ったからもう十分です」

と嬉しそうに微笑んだ。

「あげておいて言うのもなんだけど。私にもひとつ頂戴」

が言うと「どうぞ」と仙道が手渡す。

もそれを口に入れて「はあ」溜息を吐く。

「あー、ココアが飲みたくなってきた...」

「俺、買って来ましょうか?」

「いいよ。生徒をパシらせるわけにはいきません。帰ってから飲むから」

「や。買ってきます。そしたら、先生もまだ帰らないでしょ?」

「...そうね。じゃあ、一緒に買いに行きますか?自販機の前に行ったら飲みたいものが変わるかもしれないし」

そう言って立ち上がり、コートを仙道に返した。

「いいですよ」と言うけど、「仙道くんのだし。もう慣れたから大丈夫よ、ありがとう」と言われて渋々コートを受け取った。


「仙道くんとこうして一緒に歩くの、もう無くなるんだねぇ」

しみじみとがそう言う。

「制服着てってのは、ね」

仙道の言葉を受けてが見上げる。その先にはやはり寂しそうに笑っている仙道の顔があった。

不意に仙道の大きな手がの手を取る。は驚いて繋がれた手を見た。それはそのまま仙道の羽織っていたコートのポケットに入る。

が見上げれば仙道が微笑む。

は嫌がるでもなく、廊下の先を見つめながら足を進めた。


このまま誰にも会わない廊下が続けば良いのに...

何となく、そう思った。










桜風
07.12.19


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