想いは風に乗せて 20





待ち合わせ場所に行くとそこそこ人数が揃っていた。

「仙道さん!」

「...背が高いと目印になっていいわね」

いち早く仙道を見つけた後輩たちが寄ってくる。は仙道を見上げてそう言った。

「よく言われます」

仙道は軽く肩を竦めた。

先生もご一緒だったんですか。言うてはった用事は済んだんですか?あ、そういえば。今日、監督から聞いたんですけど。さんとさんにも声を掛けてはるそうですよ」

彦一がそう言う。

「そうなんだ?」

はそう言って何でもないことのように受け入れている。

仙道は不満そうだ。

「まあ、意外なことには田岡先生のお気に入りだったからね。外面大王だったから」

がそう言うと周囲は何となくなるほど、と納得した。

「でも、の仕事が終わるのって結構遅い時間なのに」

「風邪、引いてきたりして」

冗談で仙道はそう言い、も「流石にそれはないよ〜」と笑った。


部員の人数が多いため、毎年同じ店で予約を取っている。

全員がそろい、そこへ向かうと店先に田岡とが居た。

「おお、来たか」

「ホントに居る...」

がそう言うと、を連れて田岡から少しはなれ、

「俺だってホントは来たくなかったんだよ」

と額を寄せて小声で訴えた。

「じゃあ、断ればいいじゃん」

「どうやって!」

に言われて田岡を見る。上機嫌だ。

「孝行息子するしかないね...」

「だろ?」

そうやって仲が良さそうにヒソヒソと話しているだったが、仙道がを引き寄せて離れた。

「さ、行きましょう。さん」

は面食らったが、プッと噴出す。

も突然のことで呆然としていたが苦笑いを浮かべた。


宴会が始まって間もなく

「おっくれましたー」

と元気な声が聞こえる。

!?」

「やほ、。田岡先生、本日はお招きに預かり光栄です。って、も居るし...」

「うるせぇ」

の隣に座っている仙道に軽く手を挙げる。仙道は会釈をして返した。

、仕事は?まだ終わる時間じゃないでしょ?」

「いやぁ、今日のあたしは風邪気味でね。早く帰らないといけないのよ」

そう言ってニコニコと笑っている。

と仙道は顔を見合わせて目をぱちくりとした。本当にやったよ、この人...

「よくクビにならないねぇ」

「あそこにはあたしが必要なのよ」

「それでもさぁ...」

の言葉に「分かってるって」と手をパタパタとさせた。


そのまま追い出し会という名目の宴会は続き、も卒業した3年たちと話をしたりしていた。

が、

「重いよ、仙道くん」

さっきから仙道がくっついてきて、正直重い。自分との体格差を考えてほしいものだ、と思っていると仙道は「はい、先生」と挙手した。

「はい、仙道くん」

楽しそうに仙道の隣に座っていたが指名する。

「俺は、さんと結婚します!!」

宣言した。

丁度飲み物に口をつけていた者たちは盛大に噴出す。

も危うく飲み物に口をつけるところだったため、コップの中のカクテルを少し零してしまった。

お絞りで手を拭き、取り敢えず自分の手の届く範囲の机の上も拭く。

「ほ、本当か

真顔で田岡が聞いてくる。その隣に座らされていたはおなかを抱えて笑っているし、は可笑し過ぎて泣いている。

「私も初耳です、田岡先生」

そう答えて仙道のグラスを手に取り、一口飲んでみる。

「誰、仙道くんにアルコール飲ませた人は」

低く怒っていると誰にでも分かるような声での目を見てそう言う。は大人しく挙手した。

!この子、まだ未成年なのよ!!OBが未成年でアルコールって大問題でしょ!それで残った子達が大会の出場停止になったらどうするつもりよ!!」

が本気で怒った。

酔って気持ち良くなっている仙道でさえ、思わず距離を取ってしまうくらい怖かった。

「仙道くん、これ飲みなさい」

とウーロン茶をドンッと目の前に置く。

「はい...」

すっかり酔いも醒めた仙道は大人しくそれを口にした。

「本当なら胃の中のものを全部吐かせて水を飲んでアルコールを薄めてもらいたいところだけど、流石にそれはかわいそうだからなー」

がブツブツ呟いている。

「よし、仙道くん。帰りなさい。いや、ひとりで帰すのはまずいかな...?あー、じゃあ仕方ない。田岡先生、私仙道くんを連れて帰ります」

「そ、そうか?じゃあ、頼もう。戻ってくるか?」

「はい。をこってり絞りに戻ってきます」

満面の笑みではそう言った。

は情けない声で「ぇえ〜!」と言っていたが、はその抗議は無視して立ち上がる。

「仙道くん、帰るよ」

「はい」

大人しく仙道も従った。


店を出ては大きく溜息を吐く。

「分かってたんでしょ?アルコールが入ってたの」

そう言いながら歩き始める。

仙道もそれについて歩き始める。

「はい...」

「何だってそんなものを飲んだの」

呆れて聞く。

いつもちゃんと冷静でいる仙道が。未成年でアルコールを飲んで、それが発覚したら後輩たちに迷惑をかける可能性だって、自分の将来にだって色々支障があるかもしれないというのに。

「早く、大人になりたかったんです」

仙道の言葉に驚いては見上げる。

「放っておいても子供として扱ってもらえない年になるわよ」

溜息混じりにそう言う。

「だって、俺。ガキじゃないですか」

は肯定も否定もせずに黙って聞いていた。

「全然遠いです、さんが」

しょんぼりそう言う。

は困ったように笑みを浮かべる。

「ねえ、仙道くん。お酒が飲めても大人にはなれないよ。背伸びをしてたらいつかこけちゃうよ。だから、ちゃんと地に足をつけてしっかり歩きなさい。そしたら、いつか自分の行きたい場所に行けるから。

あのさ、仙道くんは自分が思っているほど子供じゃないよ。大人でもないけどね。

焦らないことよ。今の仙道くんにしか出来ないことってあるでしょ?それをやっていけばいつの間にか大人になってるんだよ、きっとね」

「ごめんなさい」

しょんぼりと仙道が言う。

は笑顔で頷いた。


「ところで、仙道くんの家ってどっち?」

わからないまま足を進めていた。

「真逆です」

「それを早く言いなさい!」

仙道の言葉には回れ右をした。

ふと目に入ったカフェを指差し、

「その前に、お茶して帰ろうか」

と言う。

「はい」と答えた仙道はいつのも笑顔だった。



仙道を送り届けて戻ってきたは予告どおりにこってり絞られ、その怒りように部員たちは「先生には逆らわないようにしよう」と皆心に誓った。

正直、田岡監督よりも怖かったと誰かが言った。










桜風
07.12.29


ブラウザバックでお戻りください