| 先日仙道から電話があった。 買い物に付き合ってほしいという。 大学の部活の無い休日、陵南も休養日だったから丁度良かった。 約束の場所と時間を言ってきたのは仙道。 それなのに。 は周囲を見渡す。 仙道がいない。 こういうとき仙道は早く来てたりしそうだと思っていたのだが。しかも、ちゃんと自分を見つけてくれると思うのだが。 は改めて少し背伸びをして周囲を見渡す。 身長190センチも有る仙道なら何処にいても目に入りそうなものなのに... 本日3回目の電話をしてみても仙道は出てこない。 時々に耳に入る救急車の音にどうしようもなく落ち着かない。 その日の朝。仙道は目を覚まして立ち上がるとふらふらする。 これはマズイ。 昨日、明日はとデートだと思うとウキウキして眠れなかった。 は『デート』と言うと何となく警戒するが、『買い物に付き合ってほしい』などと言うと意外にもあっさり頷いてくれる事に驚いた。 今度からもこの手で行こうと思いつつ、何だかんだで眠れずに起きていた。 今の時期の夜はまだ冷える。 そんなことを考えずに薄着で過ごしていたものだから... 仙道は時計を見た。 もう少し時間に余裕がある。少し、寝ることにした。 そして次に目を明けたとき、携帯の表示していた時計は約束の時間を1時間近く過ぎている。 着信があったようで見てみれば、の名前が3回。 慌ててリダイヤルした。 もう待っていないかもしれないけど、それでもごめんなさいと謝らないと。 『もしもし、仙道くん?何処居るの!?』 「ごめん、さん。俺、今日行けなくなった」 『ちょ、何その声。風邪?風邪引いたの!?』 怒ったようにそう言うに 「ホント、ごめん。また付き合ってくれるかな?」 『それは全然構わないけど、大丈夫なの!?』 「うん、大丈夫。ごめんね、じゃあ」 確かに喉が痛い。これ以上の会話は避けたほうがいいと思い、一方的に電話を切った。 またうとうととしてきた。 額がひんやりと冷たくて気持ちがいい。 重いまぶたを開けると誰か人影があった。 泥棒かな、と思いつつも体が言う事を聞かない。 まあ、盗まれるものなんてあんまりないし、と思いそのまま泥棒に声を掛けないでいたら泥棒が膝をついて顔を覗きこんできた。 「あ、目が明いてる?」 その声に仙道は目を見開く。 「うお、明いた。おはよう、仙道くん」 そう言ったのはで、仙道は何処から夢だろうと悩む。 取り敢えず聞いてみることにした。 「あの。さん、だよね?」 「うん。アナタの元担任のと申します」 そう言って笑う。 「何で?鍵、開いてた?」 に1度合鍵を渡そうかと話をしたら、あっさり断られて渡せずじまいだったのだ。 因みに、の部屋の合鍵をねだったらあっさり却下された。まあ、予測していたが... 「ああ。仙道くんがチェーンかけてなくて助かったよ」 とはにこりと笑う。 「どういう...」 「管理人さんにお願いしたの。『弟が風邪を引いたみたいで看病に来たんですけど、鍵が開いてないので開けてくださいませんか?』って。何か証明するものを、って言われたらアウトだったけど、意外にもすんなり開けてくれた。良かったね、仙道くん」 そう言って布団から離れた。 ああ、夢じゃないんだ...そう思って天井を見上げる。 ビックリした。 「仙道くん、何か食べれる?」 離れたところからが声を掛けてくる。 「ほしくない」 「あ、食べたい?」 そんなこと言ってない... 「仙道くん、りんご好き?」 「まあ、一応」 「じゃあ、食べやすいように擦ってあげるからそれ食べて薬のもう。何にも食べてないんでしょ?」 に言われて「はい」と微かに頷いた。 りんごを剥く包丁の音がして、更にそれを擦る音が聞こえた。引き出しを開けてカチャカチャと音をさせて、たぶんスプーンを探しているのかなと思った。 やがてがスプーンの入った器を持って戻ってくる。 「はい、お食べ」 そう言われて仙道は体を起こす。こんなに自分って重かったっけ?と悩む。 何とか体を起こして仙道は息を吐く。 「大丈夫?」 「さん、食べさせてください」 「あ、元気そう。はい、食べて」 あっさり却下された。無情にも自分の手には擦ったりんごの入った器がある。 風邪を引いているときくらい優しくしてほしいと思う。 水と薬を持ってが戻ってきた。テーブルにそれを置いて仙道の側に引き寄せて、自分は仙道背中のところに足を伸ばして座る。 の肩と仙道の背中がくっついた状態だ。 「さん?」 「凭れていいよ。ひとりで座ってるのキツイでしょ?」 そう言われて少し体重を預けてみた。体格差を考えて全体重を一気に掛けるのは流石に辛いと思う。 「仙道くん、熱高いね。というか、それ食べたら着替えたほうがいいよ」 笑いながらそう言う。 もう少しだけ体重を掛けた。随分楽になる。 「ねえ、そのりんご甘かった?」 が聞く。 「丁度いいかな?酸味もあって」 そう言って少し体を捻っての口元にりんごを掬ったスプーンを持っていく。は躊躇うことなくパクリとそれを口に入れた。 「あ、ホント。私ってば天才!」 そう言って笑う。 「湘北の桜木みたいですよ」 仙道の言葉にはぐっと言葉に詰まる。あんまり嬉しくない。 ゆっくり時間をかけてりんごを口に運ぶ。それは風邪で体がだるいのもあるが、とこうしてくっついておきたいという思いも有るからで... それでも、が不審に思わないのは風邪のお陰だと少しだけ感謝したくなる。 「食べ終わったらそこの薬飲んでね」 に声を掛けられ、仙道は言われたとおりに風邪薬を飲んだ。 「どうする?着替える?どこにあるか言ってくれたら取ってくるよ」 「じゃあ、」と仙道は自分の着替えの場所をに教えた。 言われたとおりにはそれを持ってくる。 「タオル用意してくるから少し待ってて」 そう言ってまたは居なくなった。 が戻ってきたときには仙道は一生懸命シャツを脱ごうとしていた。 「はい、仙道くん。ばんざーい」 に言われて力なく万歳をする。そのままが仙道のシャツを脱がせる。 タオルで汗を拭いてもらい、また万歳をしてにシャツを着せてもらう。 そして力尽きた仙道はそのまま体を横にする。 「さん、何時に帰る?」 「決めてないけど、流石にあまり遅くまでは居られないよ」 「うん」と寂しそうに仙道が頷く。 は苦笑して 「まだもう少し居るから。ゆっくり寝てなさい」 そう言って布団をポンポンと優しく叩いた。 |
桜風
08.4.23
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