| が歩いていると何となく聞いたことのある声で呼び止められた。 振り返るとで、ああ、だから聞いたことあると思ったんだ...と思う。 「何?」 「あのさ。今、時間ある?」 言いにくそうに言う。 「今の時間のバイトって、キャッチ?」 「ちげーよ!愚痴聞いてくれって話!」 なんとも情けないことを胸を張って言うのだなと思う。 「ラーメン」 「んなもんでいいのか?」 そう聞くを見上げて 「の財布の中身を鑑みてそれくらいが妥当かと...」 と言う。 「お前、すげー失礼だな」 「じゃあ、フレンチフルコース」 「ラーメンでお願いします」 分かればよろしい、とが頷く。 美味しいお店を知っているから、とが言うのでそれに従ってみることにした。まずかったら文句を言ってやろう。 が道路向こうに見知った人物を見つける。 後輩の仙道。が唯一認める陵南のエース。つまり、自分は認められていなかったということだ。 初めての口から仙道を紹介されたとき、ちょっとムカついた。 そこは自分のポジションだと思っていた。 でも、実際は1度もそこ立てたことはなかったらしい。 仙道がこちらに気付いたようなので意地悪をしてしまう。 「邪魔になってんぞ」 と言っての肩を引き寄せた。 あたかも後ろの通行人の邪魔になっていると思わせて。 「え、ホント?ありがとう」 はそれを信じてを見上げて礼を言う。 仙道が呆然と立ち尽くしていた。 ザマミロだ。 八つ当たりだということは分かってる。結局、今の自分となる原因を作ったのはすべて自分だ。 でも、仙道は自分が手に出来なかった全てを持っている。 自分も同じく1年のときから陵南のエースだったのに、スタートラインは同じだったはずなのに仙道は全てを手にした。 全国大会の出場権も、神奈川のトップも、バスケで約束された将来も。そして、リング以外を見ていなかったというの関心も。 それを嫉妬というのは知っている。 自分が今やっていることも、自分の小ささを強調する以外の何物でもない。 が知ったら今度こそ絶交されるようなことだということも何となく予想できる。 別に、に未練はない。友達として付き合えることがとても不思議に思うくらいだ。あんな言葉を投げつけたのに、は赦してくれた。 何でもないことのように。 敵わないと思った。にそう零すとケタケタと笑って 「今頃気付いたの?遅いって!!ばっかだねー」 と追い討ちを掛けられた。 「ここだ」と言ってが立ち止まる。 着いた店は 「うわ、ボロ...」 が眉を顰めてそう零してしまうほどの外観だ。 「馬鹿、食ってから文句は言えよ」 そう言って慣れたように店内に入っていくの後ろを着いても店内に入る。 「ラーメン2つ」 そう言って適当に座る。 「で、話って?」 「あのさ、俺振られたんだわ」 「ああ、そう」 適当に相槌を打つ。 「うわ、冷て!」 「で?理由は?てか、振られるの初めてじゃないんでしょ?」 容赦ないの言葉に 「理由...わっかんねぇ」 と頭を抱えた。 「聞きたかないけど、ラーメン奢らせてるんだからちゃんと聞くよ。何て振られたの?」 溜息混じりにそう言う。 ってこんな性格だったっけ?とちょっとだけ悩む。もう少し従順と言うか、こう言葉にクッションが... 「や、何かさ。別の男に告られたからって。結婚を前提にって。俺も結婚しようって話してたんだぜ?アイツだって嬉しそうに頷いたのに」 「向こうは定職についてたんじゃないの?」 ばっさり切られた気がした。痛い... 「な、いや。たぶん、そうだと思う。え、結局は金!?世の中カネが全てか!!」 向かい合って座っているに向かって体を乗り出してが問い詰める。 面倒くさそうにはそれを押し戻して 「同じだけ好きだったら、やはり安定した生活を望むでしょう」 と冷静に告げる。 「もし、彼女がその新しい彼..仮にAさんとしよう。定職についてるAさんとフリーターのを同じくらいの比重で想っていたら、Aさんと結婚するほうを選ぶんじゃない?でも、の方を好きだったらを選んでたと思うし」 「え、そんな簡単に割り切るのか?」 「女って結構現実的なことろがあるからね。逆に夢見がちなのは男の方だと思うよ」 そんな話をしているとラーメンが運ばれて来た。 は割り箸を取ってに渡し、自分のも手にして割る。 まずスープを飲んで「あ、結構美味しいじゃん」とに言うと「だろ?」と得意げな表情が返ってくる。 「じゃあ、さ。もそうなわけ?」 ズズ、と麺をすする。 「ん?」 「その仮のAさんと俺みたいのとだったらAさん選ぶってコト?」 ゆっくり咀嚼して飲み込む。 「同じだけ好きだったら、ね。たぶん。私さ、自分の食い扶持も稼げない人とは結婚したくないって思ってたから」 頬杖をついてそう言う。 「過去形になってたぞ、今の言葉」 に指摘されて「へ?」と聞き返す。自覚は無かった。 「じゃあ、さ。俺と仙道だったら?どっちと結婚したい?」 子供のような言葉だと思っていたら 「私、は初めから選択肢に無いんだけど」 とまたしてもばっさり言われた。自業自得とは言え、ちょっと辛い。 「じ、じゃあ。そのAさんみたいな企業戦士と、仙道」 「というか、何でさっきから仙道くんの名前を出してるの?」 溜息混じりにそう言う。 「だって、お前仙道好きだろう?」 そう言われて絶句した。 「そ、そうなのかな?」 おずおずと聞き返す。 「はあ?何すっとぼけたこと言ってんだよ。お前ら見てて誰もがそう思うだろう。結婚宣言したじゃん」 「いや。アレは、仙道くんが酔って言ってみただけだよ」 は呆然とした。 え、何?どうして誰もが一目瞭然と言いそうな自分の気持ちがわかんないんだ、コイツ。 「ま、まあ。スキとか別にして良いよ。仙道と金持ち。どっちだ?」 どうしてもその見たことのない金持ちと言えない自分に驚く。昔の自分だったらすぐさま大学生の仙道よりも将来を考えて金持ちとか言いそうなのに... 「私、その金持ち好きになれないかも...」 呆然と呟いた。 「じゃあ、やっぱ気持ちの問題だったのか...」 椅子の背に体重を掛けてが呟く。 「取り敢えず、就職活動してみたら?それか、派遣か」 呆然としていたはずのはラーメンを掬いながらにそう言う。 「だなー。少し将来設計見直す必要性があるよな」 「少しどころじゃないと思う」 の言葉にぐっと詰まる。 「お前さ、意外と口悪いな」 「ああ、うん。よく言われる」 あっさり認めたには 仙道も大変そうだな... とこっそり溜息をついた。 |
桜風
08.5.14
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