君が好きだと叫びたい 11





夏休みに入って、部活動主体の生活が始まる。

大抵午後からで、午前中は時間があるため学校から出た宿題もその時間に済ませるようにしていた。

そんな夏休みだったが、誰かが言い出した。

花火大会があるから見に行かないか、と。

有志を募って皆で見に行くことになった。

もいこうぜ」

と信長に誘われても行くことにした。


家に帰って荷物を置いて母に話すと

「じゃあ、ついでだから浴衣も着ちゃいなさいよ」

と言われ身包みはがされて、浴衣を着せられた。

そんなことを知らなかった信長は部屋から出てきたを見て硬直する。

「な、どうした、それ!」

「お母さんが、ついでだから着て行きなさいって。やめたほうが良いかな?」

そう聞かれて

「あー、いや。折角着たんだし。いいんでない?」

と信長は答えた。

集合場所へ向かう途中、

「ね、ね。似合う?」

に聞かれて信長は思わず

「別に、浴衣がいいから誰でも似合うんじゃねぇの?」

と答えてしまった。

の機嫌は見る見るうちに悪くなる。

しまった、と思っても後の祭りで気まずい雰囲気のまま集合場所に着いた。

バスケ部が集まるだけあって、背の高い集団ができている。

部員たちは信長と共にやって来たの浴衣姿を口々に褒めた。

お世辞抜きで可愛いというのは、信長も含めて全員の感想だ。


そして、秘かにと2人で夜店を回りたい、そう思っている部員たちによる水面下での熾烈な争いが始まった。

そんな部員たちの争いを見て余裕の笑みを浮かべたのは、神宗一郎。

ちゃん、一緒に回ろうか」

他の部員たちがいがみ合っている中、漁夫の利よろしくを誘ってさっさと花火の良く見えるところへと向かった。

そんな2人の姿を見て牧は溜息をつき、

はもう居ないぞ」

と親切に声を掛けておいてやった。


「皆置いて行って良かったんですか?」

「いいよ、どうせあの人数で回るとか出来ないでしょう?どの道はぐれるんだから、気にしなくて良いと思うよ」

神は時々強引だと思う。

そう言うところは藤真に似ているな、と両者が聞いたら激しく抗議しそうなことを思っていた。

ちゃんって」

「はい」

「信長と血が繋がってないんだってね」

突然神がそう言う。

何で知っているのだろう、と軽くパニックを起こしていると

「信長から聞いたんだよ。俺と、牧さんにだけは話しますって」

と先日のことを話す。

「そう、だったんですか。やっぱりノブにとってお2人は頼りになる先輩の筆頭なんですね」

「そうかな?」

の言葉に神が笑う。

「これは、俺の好奇心だからちゃんが話したくないならそれでいいから。そう言ってね」

「はい...」

何を聞かれるのだろう?

ちゃんは、信長と兄妹になるの嫌じゃなかったの?もう中学生になるときだったんだよね、お母さんの再婚って」

そう聞かれる。

「そうですね。戸惑いはありましたけど、嫌じゃなかったです。清田のお父さんは、お母さんをずっと支えてくれていた人ですから」

そう言って神を見上げる。

「私、お父さんを亡くしてるんですよ。それからお母さんはずっと一人で私を育ててくれたんですけど。でも、ずっと独りでって辛いでしょう?そんなお母さんを支え続けてくれたのが、ノブのお父さんで、再婚だって随分待ってくれたらしいんです。私がちゃんと色々受け止められるまで。だから、ノブと兄妹に、というんじゃないですけど、お母さんとノブのお父さんが結婚することには大賛成でした」

「じゃあ、信長のことも?」

「初めて顔を合わせたとき、突然誕生日を聞かれたんです。そしたら『俺の方が誕生日が早いから、俺が兄ちゃんだ』って自信満々に言ってきて。それが凄く可笑しくて、楽しくなりそうだなって。全く抵抗がなかったかと聞かれたら『はい』って頷けませんけど、でも上手くやっていけそうだってそう思いましたよ」

「信長らしいね」と言う神に、「ですよね」とが言って笑う。


「そっかー。まあ、そう言うことだから、頼ってね」

頭の後ろで手を組んで神がそう言う。

「え?」と見上げると

「何か、凄く困ったことがあったら俺と牧さんは2人のことちゃんと知ってるんだから、独りで抱え込まずに頼りなよ。因みに、俺は断然ちゃんの味方だから」

と言って笑う。

「ありがとうございます!」

も笑顔で応えるが

「で、健司お兄ちゃんって誰?」

と神に言われて固まった。

「な、何で...」

「この間、信長の勉強を見に行ったとき、俺が『アレ』が居るって言ったら『健司お兄ちゃーん』って言ってたよ」

「ぐ...」と言葉に詰まる。確かに言った。ような気がする...

「翔陽の藤真さん。名前は健司って言うらしいよ、知ってた?」

知ってますとも...

ライバル校のバスケ部のキャプテンと仲が良いというのはマネージャーとしてはどうなのだろう?

怒られるかな?追い出されるかな??

追い出されるのはイヤだな...

そんなことをグルグルと考えていた。

「知り合いなんでしょう?藤真さんと」

「へ!?」

核心を突かれて素っ頓狂な声が出る。

「翔陽・湘北戦。あのときおかしいなーって思ったんだ。目にゴミが入ってもあんなにならないでしょう、普通。もしかしたら、翔陽とかに関係有るんじゃないかなって思ってたんだ。ちゃんが隠そうとしてたから、あの時はああ言ったけど。いいじゃん、よその学校に友達が居るなんて俺も同じだよ」

「陵南の、福田さん?」

確か、『フッキー』とあだ名で呼んでいた。

「そう。フッキーとは友達だし、あの試合以降連絡も取ってるよ」

「そうだったんですか?」

の問いに神は微笑む。

そんなに頻繁じゃないけど、と心の中で付け足す。

「そうかー、大丈夫なんですね」

と安心したようにそう呟く。

「で、藤真さんなの?」

「えーと、はい。藤真さんと、花形さんと長谷川さんは小さいときからお世話になってたお兄ちゃんです」

白状した。

「今でも交流はあるの?」

「はい。そこそこ、ありますね」

の答えに神は「ふーん」と返す。正直、あまり面白くない。


ともかく。

に昔の話を聞けたのは大きい。

これで、の自分に対する隠し事が減る。つまり、自分に対するガードが緩くなるということだ。

ドン、という音がして夜空に大輪の花が咲く。

「凄いですよ、神さん!」

見上げてが笑顔でそう言う。

「そうだね」

答えながら神はポケットの中の携帯を取り出す。

さっきからずっと振動していた。

開けて見れば、着信履歴は信長の名前で埋め尽くされていた。

「そんなに大事なら、ずっと捉まえておけば良いのに...」

神の呟きは花火の音にかき消された。


黒い神さん。
たぶん、フッキーとはそんなに仲良くしてないと思う。
今後、試合で会ったら話はするかもしれませんけど...


桜風
07.3.12


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