| 部屋は意外と広く、他の2つとも同じ広さだと聞いた。 「広すぎだよ...」 一人で使うには広すぎる。 荷物を降ろしては窓の外を覗いた。 山の中にあるこの旅館からの景色は何度見ても笑顔になる。 手前の緑が眩しく、そして、空に近いところには海が見える。 今年は海に行ってないなー... そんなことを思っていた。 温泉に浸かって、美味しい夕飯を食べて。 幸せ気分に浸っていた。 ただ、やはりこういう旅行で独り部屋というのは楽しくない。 でも、皆疲れているだろうから、邪魔しちゃいけないよな、と静かに外を眺めていた。 「藤真さん、すみませんでした。ウチのちゃんの世話を焼いてもらってホント申し訳ないですよ」 夕食後、部屋に戻った神がそう言う。 例によって例のごとく、藤真はの隣の席をキープして何かと世話を焼いていたのだ。 それはもう、花形と長谷川が恥ずかしくて穴があったら入りたい、と思うくらいの甲斐甲斐しさで、それを目の当たりにした牧は呆然とし、信長はブルブル震えていた。 気持ち悪い... 独り、神は笑顔で食事を摂っていたのだが... 「『ウチの』、だと?」 「ええ、ちゃんは『海南大附属高校バスケ部マネージャー』ですから。『ウチのちゃん』でおかしくないと思いませんか?」 「いーや、おかしい!との付き合いは俺の方が長いんだ」 「時間だけでしょ?」 「何だと!?」 「時間なんて放っておいても無駄に流れていきますよ。要は、どう過ごすか。それが大切なんじゃないですか?それに、ちゃんはもう高校1年生ですよ。あんなに世話を焼く必要がどこにあるのか、俺にはさっぱり分かりませんよ」 藤真と神の舌戦が始まる。 終始笑顔の神に対し、藤真の目つきは剣を孕んでいる。 泣きそうになりながら、信長は部屋を出て行った。 ノックされたかと思うと、勢い良くドアが開き、 「牧さーん!!」 と泣きながら後輩が入ってくる。 「清田!?」 「俺、もう無理ッス。布団無くていいから此処に置いてください!!」 牧に縋りついて本気で泣いてる。 花形と長谷川は顔を見合わせる。やはり始まったか... 困り顔の牧に無言で助けを求められ、 「取り敢えず、布団は3人分しか置いてないみたいだから、ちゃんのところから借りよう。部屋が広くてよかったな、清田」 花形が答える。 それを聞いて信長は 「俺、このご恩は一生忘れません!!」 と抱き付いた。 離れろ... 遠い目をして花形はそう思った。 4人揃っての部屋の前に立つ。 良く考えたら、が寝ていたらアウトだな、と牧は思った。 が、幸いなことには起きており、ドアの前に立つ4人を見上げて首を傾げた。 信長は何故か牧の腕にしがみついていて『何が何でも離れないぞ』、という気迫を放っている。 「どうしたんですか?」 「ちゃんの部屋に布団は余ってる?」 「うん。2組余ってるけど」 「じゃあ、1組くれないかな?清田がこっちに来るって言うから」 「いいよ。えーと、持って行ってくれると嬉しい、な。と思うんだけど」 これだけでかい人間が4人もいるのだから、と思って提案してみると 「おう、持って行く。ありがとうな、」 と信長が部屋に入ってきた。 「ちゃん、もう寝るの?」 「うーん、だってやること無いもん。おしゃべりできる人も居ないし」 「じゃあ、俺たちの部屋に来る?眠たくなったら此処に帰ればいいし。ウノがあるよ」 「行くー!...透お兄ちゃんウノなんて持って来てたんだ?」 「いや。俺じゃない。昨日までこの山の上の廃校でスタメンで合宿してたんだ。それで、高野が、あ、高野って分かるか?」 一生懸命翔陽のスタメンを思い出して、多分あの人、と思って頷いた。 「高野が持ってきてたんだけど、忘れて帰ったからな。俺が持って帰って部活のときに渡してやろうと思ってたんだ」 「そっかー。勝手に使ってもいいのかな?」 「どの道、使う人間が居ないんだからいいだろう」 長谷川もそう言う。 「じゃあ、高野さんにお礼言っといてね」 「別にいいと思うけど...いいよ、ちゃんと言っておこう」 花形の答えに満足そうに笑って皆で隣室の牧たちの部屋へと向かった。 「神さんと健司お兄ちゃんは?」 「何でも、2人で熱く語ってるらしい。邪魔しないほうがいいだろう」 と遠い目の牧。 「意外と仲が良かったんですね」 「同じものを大切にしているからな」 花形もそう答えた。 は一人「意外だなー」と呟いていた。 そんなの姿に4人はこっそり溜息を吐いた。 ウノで盛り上がっている中、が舟をこぎ始めた。 「、眠いのか?」 「部屋に戻るかい、ちゃん?」 それぞれが声を掛けるが、「うん...」と意識のない返事が返ってくる。 「ったく、しゃーねーな」 と、当たり前のように信長がを抱えて部屋から出て行った。 残された花形たちは暫し呆然とし、 「藤真が目撃しないといいんだが...」 と長谷川が呟いた。 の部屋にはもう布団が敷いてあり、を片手で支えたまま布団を剥ぐ。 敷布団にそっと降ろして布団を掛けてポンポンと布団を優しく叩いた。 不意に目に入ったの髪を梳く。 そのまま頬を撫でたところで、慌てて手を離して硬く拳を握る。 少し足早にの部屋を出た。 鍵を閉めていないと物騒であるため、その旨を書いてテーブルにおいて鍵は持って出る。 部屋に戻ると 「俺たちも寝るか」 と牧に言われる。 「あ、俺もう1回温泉に浸かってきます」 そう言って部屋を出た。 神との舌戦を終え(勝敗は決まらず)、疲れを取るためにもう一度温泉に浸かっていた。 すると、人が入ってくる。 信長だった。 藤真を見た途端、脱衣所に戻ろうとする信長に、 「まあ、背中を流してやるから逃げるな」 と声を掛けた。 信長は天を仰いで、気を取り直したように入ってきた。 「藤真さんって風呂好きなんスか?」 「汗をかいたからな。いつの間にか居なくなったルームメイトも居るしな」 「いや、お2人の邪魔したくなかったんで...」 ははは、と乾いた笑いを漏らす信長に、藤真は目を眇める。 何だってこいつを... 「あの、藤真さん?」 「ああ、背中を流してやる約束だったな」 そう言って湯船から出てきた。 信長の動きがぎこちない。 「い、いや。いいです。お、俺が流しましょうか。藤真さんの背中」 「いいから、座れ」 藤真に言われて信長は諦めたように大人しくなった。 「清田」 「はい!」 「が選んだことだから、お前が兄貴だとかそういうことにとやかく言うつもりは無い。だがな、が俺に助けを求めたときは俺は全力であの子を守る。例え周りが何と言おうとな。...を、泣かすなよ」 「はい」 信長の真摯な返事に藤真は内心舌打ちをした。 そしてもう一度、 何で、コイツだ? と心の中で不満を漏らしていた。 |
藤真と神さんの舌戦は勝敗が決まらないと思います。
お互い、途中で飽きるというか、馬鹿馬鹿しいと思い始めてくれそうです。
そうでないと、この話だと一晩中続いてしまうような...
一緒の空間に居たくないです...
桜風
07.3.19
ブラウザバックでお戻りください