| 文化祭が迫ったある日の出来事。 部活が終わって家に帰ると鞄をそばに置いたが制服のままリビングのソファで眠っていた。 「ったく、風邪引いても知らねぇぞ」 と言ってその場に荷物を置いての元へ行く。 の前に膝をついて顔を覗きこむ。 あどけない表情のに思わず頬が緩む。 起きない、よな? 頬をつついてみる。ぱさりと耳に掛けていた髪が落ちてきた。 それを一房手に取り、口付ける。 そして、その角度を変えての柔らかそうな唇に触れた。 が驚いたように目を見開く。 「ノブ、今...」 唇を手で押さえてヨロヨロと立ち上がる。 「、俺」 手を伸ばしてに触れようとする。 「やだ!」 パシ、と乾いた音が部屋に響く。 は側においていた自分の鞄を掴んで家を出て行った。 重たい空から雨粒が落ち始めた。 「うわ、やっぱ降って来たな」 空を見上げて藤真は鞄の中から折りたたみ傘を取り出す。 「俺も入れてー」 と高野が言ってくる。 「お前はでかいからダメだ。俺が濡れる。花形に入れてもらえよ」 そんな会話をして正門へ向かう。 正門の前に人影が見えた。 「おいおい、また藤真のファンかー?」 「傘持って無いのか?」 共に帰るチームメイトが口々にそう言うが、それが『誰』であるか気付いた藤真は駆け出した。 「!」 「健司お兄ちゃん...」 泣きながら翔陽高校の正門の前に立っていたのは、他ならないだった。 「どうした、。何があった?傘は?ずぶ濡れじゃないか...」 「おーい、藤真。知り合いか?」 「ちゃん!」 「どうした!?」 花形と長谷川もの元へと行く。 「あいつらの知り合い?」 「海南の制服だろ、アレ」 永野と高野が顔を見合わせた。 「と、とにかく。ウチにおいで。こんなずぶ濡れのままだと風邪引くからな」 あんなに慌てた藤真、初めて見る。 後ろに居るのが、翔陽のスタメンだと気付いたは律儀にも 「あの、夏休みにウノをお借りしました。ありがとうございました」 と礼を言った。 が、 違う、ちゃん。そいつは永野だ! やっぱり分からなかったか... 花形と長谷川は心の中で突っ込みを入れていた。 「そんなことはどうでもいいから。ほら、タオルでとにかく髪だけでも拭いて」 と自分のスポーツバッグから綺麗なタオルを取り出してに渡す。 逡巡した後、 「ちょっと俺戻るわ。じゃあな」 と言って藤真はを連れて体育館へと向かった。 「何だ、アレ?」 「藤真の大切なお姫様」 と花形は答えて藤真を追いかけて自分の使っていないタオルを渡す。 「帰ろう」 そう言って花形は他のメンバーを率いて学校を後にした。 バスケ部の部室へを連れて行き、自分のロッカーを開ける。 ジャージを取り出した。 「下は、穿いてないからこれで良いだろうけど。上は、Tシャツで大丈夫か?」 を振り返り、そう聞く。 「ごめんね、健司お兄ちゃん」 「いいんだよ、に頼ってもらえて兄ちゃん嬉しいからな。じゃあ、タオルで体を拭いてから着替ろよ、兄ちゃん、外で待ってるからな」 そう言って藤真は更衣室を出た。 隠すことなく舌打ちをする。 清田は何をやってるんだ! 「クソ!」と毒づき、ダン、と壁を殴った。 家を飛び出したの頭に浮かんだのは藤真だった。 迷わず翔陽を目指した。 途中から雨が降ってきた。もう学校に居ないかもしれないけど、それでも正門で藤真を待っていた。 視界が悪くなる。 それは自分の涙でか、今降っている雨でかは分からない。溜まらなく不安になっているところに藤真が自分の名前を呼んだ。 凄く、安心した瞬間だった。 藤真に言われたとおり、借りたタオルで濡れた体を拭いた。 借りたTシャツとジャージに着替えて更衣室を出る。 「ああ、大きいな」と言って藤真は笑った。 「寒くないか?」 「うん、大丈夫」 「そうか。じゃあ、とにかくウチにおいで。風呂に入ってあったまらないと」 の手を引いて学校を出た。 藤真家は大きな家で、客間は複数ある。 前以て家に電話していたため、風呂は沸いているし、の着替えも用意されている。 「、先に入っておいで」 「でも、健司お兄ちゃん、部活で疲れてるんじゃないの?」 「いいから。が風邪引いたら大変だろ?」 そう言ってをバスルームへ連れて行った。 藤真は自室に戻って服を着替える。 部屋の電気を点けないままベッドの上に座る。 ただただ怒りの感情しか込み上げてこなかった。 暫くして、部屋のドアがノックされる。 「健司お兄ちゃん」 だと気づくと部屋の電気を点けて笑顔でドアを開ける。 「ありがとう。本当にご」 藤真がの唇に人差し指を当てて言葉を制す。 「ごめん、は無しだ。言ったろ?兄ちゃん頼ってもらえて嬉しいって」 「うん。健司お兄ちゃんが居てくれて良かった。本当にありがとう」 「それは良かった。あ、制服はクリーニングしてもらってるから。明日の朝には乾くよ。でも、学校休みたかったら休んでいいよ。あ、おばさんには連絡入れないとね」 そう話しているとは不安そうに藤真を見上げる。 その視線に気付いた藤真はにこりと微笑み、 「ウチにはいつまでも居ていいから。でも、何も連絡をせずにおばさんに心配掛けるのは良くないだろう?」 と諭す。 「うん」 「の学校は文化祭前だったよな?」 「うん。良く知ってるね」 「兄ちゃん、のことなら何でも知ってるぞ。じゃあ、こういうのはどうだ?クラスの文化祭準備で友達の家に泊まるとか何とか。清田とはクラス違うんだろう?」 『清田』という名前を聞いての肩が揺れる。 益々ムカついて心の中で舌打ちをした。 「じゃあ、そう言ってみる」 「俺から言おうか?」 「お兄ちゃんからだとダメだよ。だって、学校違うもん」 「そうだな。大丈夫か?電話できるか?」 「大丈夫だよ。嘘をつくのが、ちょっと悪い気もするけど...でも、そう言ってみる」 そう言っては藤真の部屋から遠ざかった。 丁度藤真の携帯にも着信がある。 のことが気になっていたようで、花形からだ。 「何だ?」 『ちゃんは?』 「暫くウチに置いとくよ」 『帰らなくていいのか?』 「あの原因は恐らく清田だ。帰せられるか、そんなところに!」 『家の方には?』 「今が電話してる。文化祭準備のために友達の家に泊まるとかそんな感じで。誰にも言うなよ。特に、清田には絶対に。を泣かさないって約束したのに、アイツは!」 『だが、心配してるんじゃないか?』 「そんなもん、死ぬまでしてろ!じゃあな。切るぞ」 そう言って一方的に会話を打ち切った。 「クソ!」行き場の無い怒りに、もう一度毒づいた。 |
桜風
07.3.23
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