恋心 1





「サイテー!」

女の子の声と共に乾いた音が晴れ渡った空に響く。

バタン、と重いドアの閉まる音がしてこっそり下を覗いてみると、そこにはこの学校でかなりの有名人のツンツン頭が見えた。

今しがた『サイテー』と言われた男子は頬を押さえて肩を竦ませていた。

「また?」

声を掛けるとフラれんぼが見上げてきて「覗き見とは趣味が良いとは言えないよな」と笑う。

「何回目?」

「さあ?数えるのも馬鹿馬鹿しいってくらいかな?」

そう言いながらツンツン頭はわたしの特等席にまで登ってきた。わたしの許可なく。

「赤くなってるよ」

「だろうね。あの子のは結構効いた」

苦笑いを浮かべて先ほど平手打ちされたところをさする。

「なんでまた、サイテーなの?」

「んー。好きでもないのに付き合ったりしたからかな?」

「...ない話じゃないと思うけど?」

「オレからの申し出で」

「そりゃサイテーだ」

わたしが言うと「かもね」と言って空を見上げる。

「ねえ、仙道」

「んー?」

空を見上げたまま声が返ってくる。

わたしも空を見上げてみた。見えるのは太陽が眩しく輝いている青空、そして気持ち良さそうに空を泳ぐ雲。

「何で好きでもない子と付き合おうとか思うの?」

「そりゃ」と言葉を切って何故かわたしを見る。

「寂しいからデショ?」

何でもないことのように、そう言う。

でも...

「余計寂しくなんない?」

わたしが聞くと仙道は困ったように笑った。

「ねえ、

「ん?」

「付き合おうか?オレの彼女にならない?」

不意に仙道がそう言う。

今さっき『サイテー』と振られたばかりで、しかもその原因が分かっておきながらその言葉を口にするのだから、救いようがない。

「そんなの、ヤだよ。だってわたし、いつか仙道の頬を『サイテー!』って叩かなきゃいけなくなる。わたしのビンタは半端なく痛いよ」

そう言って立ち上がる。

「じゃあ、ごゆっくり」

わたしは屋上を後にした。


屋上の入り口のドアを閉めてそれに背を預けてズルズルと崩れる。

不意打ちなんて卑怯だと思う。

仙道はいつもああやってわたしの心を掻き乱す。

深呼吸を数回繰り返して立ち上がった。一度、屋上を振り返る。

溜息を吐いて階段を下りていく。

人の気も知らないで...

仙道に言いたいことは山ほど有るけど、それを口にすれば今の関係はなくなってしまう。

わたしはそれが一番怖い。



「よう、サボリ魔。ノートは貸さないぞ」

教室に戻ると、1年のときからのクラスメイトの越野が声を掛けて半眼になってそう言う。

「えー、そんなケチケチしないで。わたしと越野の仲じゃん」

「どういう仲だよ」

眉間に皺を寄せて抗議する。

「仙道がまた振られたよ」

いきなり話を変えてさっき見た光景を口にしたら、深い溜息を吐いた。

「またか...」

「またでしたよ」

わたしが笑いながら頷くと越野が軽く睨む。「笑い事じゃない」という風に。

そして、仙道のさっきの言葉を思い出す。

「ねえ、越野」

「なんだ?」

「寂しいからって好きでもない子と付き合うって有り?」

そう聞いてすぐにこれは愚問だったと気付く。

「余計に寂しくなるだろう、普通は。好きな子が居れば尚更にな」

意外な答えにちょっと驚いた。

けど、

「まあ、俺にはがいるからそんなのよく分からないけどな」

と思ったとおりの返事が来た。

「そのと越野を引き合わせたのは何処の誰でしたかね?」

そう言って手を出すと、越野は渋々さっきの数学のノートを取り出した。

だよ」

と言いながらそれを手渡す。

「ありがと、助かる」

「イイ笑顔で強請とは良い度胸だよな?」

「あら、これは越野の厚意でしょ?」

わたしの言葉に越野は目を合わせずにさも呆れた風な顔をして肩を竦めた。









桜風
09.2.18


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