恋心 4





意外なことにシンボルでありながらあまり並ぶ事はなく、結構早くゴンドラに乗ることが出来た。

「1周するのに10分だって」

パンフレットを見ながら言うと

「意外と長い、のかな?」

と仙道は呟いて窓の外を眺めていた。


「ねえ、

「んー?」

仙道が窓の外を眺めるならわたしだって仙道に気を遣うことなんて要らない。

「あのさ、は..」

仙道が何かを言いかけたところで、突然ガクンとゴンドラが揺れてさっきまで下に向かって動いていた風景が全く動かなくなった。

「え、何!?何??」

パニックに陥ったわたしに対して仙道はゆったりと外を眺めながら

「動かなくなったようだね」

と何でもないことのように呟いた。

「どうしよ...」

「どうもできないだろ?」

と言いながら肩を竦ませて、向かいに座っていた仙道がわたしの隣に座った。

「大丈夫だよ」

仙道の声がやけに落ち着いているせいもあって、わたしも段々落ち着いてきた。

ふと、思い出した。

これに似たような事があった。

と居ると中々面白い経験が出来るからいいよね」

仙道も思いだしたようで、笑いながらそう言った。


わたしと仙道がお互いやっと認識して名前を知った頃、わたしは偶然デパートで仙道と出会った。

父の誕生日プレゼントを買うためだったから、ついでに仙道を捕まえて一緒に考えてもらうことにしたのだ。

そして、デパートのエレベーターに乗って上階を目指していたのだが、突然エレベーターの電気が切れた。

当然箱も止まってわたしたちは閉じ込められる。

暗い密室でパニックを起こす人も居て、わたしもそうなりかけていた。

けど、「大丈夫だよ」という凄く落ち着いた声が降ってきてわたしはパニックを起こす前に見上げた。

非常灯のようなものが点いている為、正確には暗闇ではない仄明るい空間だったからほんのりだけどその表情も見えた。

仙道は『ゆったり』という表現がしっくりくる表情をしていた。

徐に仙道はわたしの手を握ってきた。驚いたけど、それ以上に誰かが一緒に居る事の安心感の方が強く、その安心感が離れてしまわないようにわたしも仙道の手を握り返した。

暫くしてその後、電気系統の故障箇所の修復も出来たようでエレベーターは動き、最寄の階でわたしたちは下ろされた。

エレベーターから降りると仙道の手はわたしの手からするりと離れ、

「ほら、お父さんにプレゼント買わないといけなんだろう?」

と言って仙道はわたしの前を歩き出した。

わたしの右手が酷く喪失感を覚え、少し寂しく感じたのだ。

思い返せば、あのときからわたしは仙道を好きになったのかもしれない。


今も仙道の左手はわたしの右手に重ねられていて、時々「大丈夫」と落ち着かせるように仙道は同じ言葉を口にする。

きっと、今回もこの観覧車が動き出したら仙道はさっきのようにわたしの向かいに座るに違いない。

ゴンドラが止まったときと同じような衝撃があり、ゆっくりと風景が動き出す。

「動きだしたみたいだな」

ああ、またわたしの右手は喪失感を覚えるのか...

そう思っていたけど仙道はわたしの隣に座ったままだった。

不思議に思って仙道を見上げると、いつもの軽薄そうな顔ではなく、優しく微笑んだ顔に夕日を受けて、『あれ、仙道の顔ってこんなんだったかな?』と思うくらいにいつもとは全然違う穏やかな顔に見えた。

だから今の状態が少し居心地が悪く感じてしまい、仙道の手が重ねられている手を抜こうとして腕を引いた。

しかし、それは思うようにはいかず、寧ろ仙道はわたしの手を引き寄せてわたしはあっさりその腕の中に倒れる。

「ねえ、

わたしの至近距離にある仙道が言葉を発した途端またしても衝撃があった。それは先ほどのように突然の停止によるものではなく、もう少しで地上に降りるという証拠のものだ。

「せ、仙道?」

もうすぐ地上だ。

「はは。、ビックリした?」

軽く笑って手を離す。

そして、丁度ゴンドラの入り口を係りの人が開きわたしたちが降りれば先ほどの停止について一言謝った。

けど、わたしはそれどころではない。


さっきから早鐘の如く鳴り続ける心臓の音を鎮めるにはどうしたら良いのか、それ以外は考えられずにいた。

仙道はあの姿勢でわたしに何を言おうとしたのか。

隣を歩く仙道を見上げると仙道は「ん?」と首を傾げる。

いつもの仙道だ。だから、余計に混乱してくる。

「次はあれに乗るんだろう?早く行こう」

先ほど乗り損ねたアトラクションを指差して仙道はわたしの手を引きながら少し足早にそこへと向かう。

まったく、人の気も知らないで...









桜風
09.3.11


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