恋心 5





あの観覧車以降、わたしは自分を冷静に見せかけるために全ての神経を注いでいたため正直何に乗って何を話したかなんて覚えていない。


翌日学校に行くと、よそのクラスだというのにがわたしの席に座っていた。

「昨日どうだった?」

「誰かさんたちがソッコー居なくなりましたので、思う存分アトラクション制覇に力を入れました」

鞄を置きながら、自分の席はに取られているので前の席に座る。

「ふ−ん。他には?」

「観覧車が止まった」

わたしの答えには驚いたようで眉を上げる。

「え、大丈夫だったの?!」

「まあ、そんなにしないうちにまた動き出したしね。最初ビックリしたけど、究極のマイペース男と一緒だったから」

と言うとは苦笑いを浮かべる。

「そっか」と呟いた後、わたしをちらりと見る。

が聞きたいことがそんなことじゃないのは知ってるけど、正直、手を重ねたくらいではニュースにはならないだろうし、それはわたしを落ち着かせるために仙道が取った手段であっただけで他意はないのだから。


予鈴が鳴る少し前に朝練を終えた越野がやって来た。

を見つけるなり爽やかな笑顔で軽く手を挙げて鞄を置き、も笑顔で越野の席へと向かう。

わたしはやっと空いた自分の席に腰を下ろして鞄から荷物を取り出してそれらを机の中に仕舞った。

「はあ」と昨日から何回目になるか数えるのも困難になる溜息が漏れる。

わたしはあの観覧車の中の仙道の表情が頭から離れなくて困っている。

遅刻魔で、軽薄で。緩くて飄々としているのが仙道彰という男だ。

それなのに、軽薄そうな雰囲気を醸し出すことなく、寧ろ真摯であるようなそんなイメージを抱かせるあの表情。

お互いを認識してからの時間は短いとは言え、それなりに仙道の事を理解していると自負していたのに、わたしの自信は昨日あっさりと崩された。

「ずるいな」

思わず声に出る。

「何が?」という声が上から降ってきて、わたしは思わず声が漏れそうになったけどそれは何とか耐えた。

「予鈴が鳴ったよ」

丁度チャイムも鳴り、わたしは内心ほっとした。

「うん、聞こえてる。あのさ、リーダーのノート貸してくれない?」

にこりと笑って仙道が手を出す。

「越野に借りなよ」

「あの邪魔をしろと?オレ、やだよ。また越野に怒られる」

そう言って仙道が後ろを振り返り、わたしも仙道の体を避けてそれを見る。

と楽しそうに会話をしている越野。

いつでも話できるじゃん!

と突っ込みたいのは山々だけど、取り敢えずあれを邪魔したらきっと放課後仙道は大変なんだろう...

「なるほどね」

だから、そう呟いて先ほど鞄から出して机の中に入れた教材を漁る。

「ほい。コロッケパン」

「えー!アンパンじゃだめ?」

不満の声を上げる仙道。

「ダメ。じゃあ、仕方ないからメロンパン」

「了解。今日でいい?」

仙道はわたしの手からノートを受け取って捲りながらそう言う。

「ううん、明日がいいな」

「はいはい。仰せのままに」

わざとらしく恭しく礼をとって仙道は教室から出て行った。


5時間目は面倒くさいから今日もサボる事にした。

また越野に呆れられるんだろうなと思いつつも、もうノートを借りるつもりでいたりする。

天気の良い日は屋上のサボるに限る。

屋上の更に上に登って寝転んだ。

風が気持ちいい。

少しだけ、うとうととし始めたら屋上の入り口が開いて誰かがやってきた。

今までのパターンで言うと、わたしのお仲間で5時間目は眠たくなるから、とサボった人か。はたまた何処かの誰かさんが頬を叩かれるのだが、それはまだその原因となるものは作っていないはずだから、きっと違う。


「ねえ、あたしと付き合わない?」

女の人の声がした。凄く自信満々な、しかも結構エロい声。

「んー、悪いけど。遠慮します」

そう答えた人物の声は聞き覚えがある。

大抵この屋上で『サイテー!』と言われて頬を叩かれているツンツン頭だ。

しかし、『来るもの拒まず、去るもの追わず』的なスタンスを取っていたと記憶しているのに...

「何で?あたしだったら遊びと割り切って付き合えるよ。楽だと思うけどね」

自信満々に彼女が言う。

けど、仙道は

「でも、やっぱりそんな関係で居ても寂しいままですから。寧ろ、余計に寂しくなるんですよ」

と答えてやはり拒否の意思を示した。

「はあ?!ちょっとモテるからっていい気になんなよ!」

彼女は突然憤ってそして、乾いた音が屋上に響く。

バタン、と乱暴に屋上のドアが閉まる音がした。









桜風
09.3.18


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