| ドアの閉まる音の後、恐る恐る下を覗いてみると頬を押さえて肩を竦ませる仙道の後ろ姿が見えた。 声を掛けるべきか悩んでいたら不意に仙道は振り返って見上げてきた。 「盗み聞きとは、趣味が良いとは言えないな」 苦笑いを浮かべてそう言う。 「え、わたしがいるの分かってたの?」 「今、ね。影が。ほら」 そう言って指差したところにわたしの影がある。全然気がつかなかった。 仙道は当たり前のようにわたしの特等席に上がってきた。 「なん、で?」 先ほどの仙道の行動が分からない。聞いてはいけないことかもしれないけど、寧ろ聞かないほうがわたしのためかもしれないって思ったけど、聞かずには居られなかった。 「今の、断った理由?」 仙道の言葉に頷く。 「オレさ、好きな子が居るんだよ」 ほら、聞かなきゃ良かった... 「そう、なんだ?」 「うん。で、まあ。彼女が振り向いてくれそうにないから、気を引きたくて他の子と付き合ってみたりもしたんだけど。余計に寂しくなるんだよね」 越野もそう言ってたな... 「だから、断った。その子にも指摘されたしね」 照れくさそうにそう言って笑う。 そうか、仙道はその子が本当に好きなんだ... 「そっか。うまくいくと良いね」 わたしの言葉に仙道は目を瞠る。 「はは。おまけに鈍いんだよ、その子」 軽く笑ってそう言う。 「大変だね」 「そう。大変なんだ。折角口説くチャンスがあってもタイミングが合わなかったりして」 「障害が多いんだね」 大変だな、仙道も。 「でも、今やっと巡ってきた絶好のチャンスかなって思うんだけど」 そう言って仙道が顔を覗きこんできた。 「ん?」 「、オレと付き合わない?」 以前言われたそっくりの言葉が耳に届く。 「はあ?」 あんた好きな子口説くんじゃなかったの!? 相変わらず意味不明で何を考えているのか分からない。 「ああ、やっぱり鈍いな」 仙道はそう言って苦笑いを浮かべる。 「オレの好きな子ってだよ。昨日、折角観覧車の中で口説こうとしたらあんな事になったし。ツイテナイと思わない?」 さらりと言ってのけた仙道は、顔を見ただけではからかっているのか本気なのか分からない。 正直、わたしは疑いの眼差しで仙道を見ている。 そりゃそうだろう。今までそんな感じ受けなかったんだから。 「あ。疑ってるな、その目は」 と楽しそうに笑いながら仙道が言う。 「そりゃそ..」 わたしの言葉は最後まで口にする事が出来ず、代わりに今までにないくらいに仙道の顔が至近距離に迫ってきてそして、わたしの唇に感触があった。 頭の中が真っ白になったわたしに仙道は 「あ、言っとくけど。オレ、結構手が早いから」 と飄々と普段の口調で言う。 いつもだったら「ああ、知ってる。てか、そんな感じだよねー」と応えそうなわたしも、流石に今回はそんな余裕のある返事は出来なくて、 「そんなことは、もっと早くに言うべきだと思う!!」 と、必死に早鐘の鼓動と連動した呼吸を整えて仙道に抗議をすれば「ごめんごめん」と適当な答えが返ってきた。 そんな余裕綽々の仙道の態度が悔しくて。 だから、思わず仙道に「わたしには好きな人がいるよ」と言った。 それを聞いた仙道の瞳は動揺したかのように一瞬揺れた。 「え..それって、ホント?」 「ホント」 仙道は目に見えて戸惑っていた。 さっきまで自信満々だったあの仙道彰は何処に行ったのだろう? そんな疑問を抱えつつも「わたしの好きな人、知りたい?」と聞いてみた。 「え、ちょっと待って」 仙道がストップをかけるけど構わずわたしは言葉を続ける。 「わたしの好きな人は、女たらしのクセに妙に義理堅くって、変なところで真面目で。時間にルーズで飄々としてるのにいざとなったら頼りになって。悔しいケド華のある陵南高校バスケ部2年生でキャプテンなんだ」 仙道は目を丸くしてわたしを見る。 「ああ、追記。手も早いそうだよ」 仙道のビックリした表情に満足したわたしは空を見上げた。 ついでにずっと抱えていたものも吐き出させてもらったし、すっきりした。 不意に腕を掴まれて引き寄せられたわたしはあっさり仙道の腕の中に倒れこんだ。 上から覗き込む仙道の表情はもういつもの余裕のある飄々としたものに戻っていて 「まったく、心臓に悪いな。本気で泣きそうになったじゃないか」 と拗ねたように呟く。 「そっちが先に不意打ちしたんじゃん」 仙道の腕の中。仙道を見上げて言うと 「そっか。じゃあ、お互い様ってことで」 にこりと微笑んだ仙道の顔がまたしても迫ってくる。 今度はちゃんと瞳を閉じてそれを受け止めた。 唇が離れていき、わたしは目を開けて 「仙道。これで、もう寂しくないね」 と笑いながら言うと 「お陰さまで」 と仙道は微笑んだ。 それは、これまでに見たことのない穏やかな表情だった。 |
桜風
09.3.25
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