恋すてふ 6






が制服に着替えて体育館に戻ると、まだ明かりがついていた。

今日は洗い物や片付けるものが多くてかなり時間もかかり、今の時間に至る。

は決して要領がいい方ではない。きちんとしないと気持ち悪いのでひとつひとつに時間が掛かってしまう。

しかし、それが部員たちに迷惑を掛けるようなことではないので皆は気にしていない。


ドアを開けると中に居た神と目が合う。

「あれ、ちゃん。まだ居たんだ」

部員が居るときはいい加減慣れたが、2人きりとなるとまだ緊張してしまう。

「は、はい。神先輩は帰らないんですか?」

「ああ。俺はいつも残って練習してるんだ」

そう言って微笑む。

「あんなにキツイ練習の後にですか?」

「うん、そう。でも、もう慣れちゃったよ。やらないと逆に気持ち悪いっていうか」

そう言って苦笑する。

ちゃんは?」

「え?」

「もう終わったの?」

「あとちょっとです。部誌を書いたらお終いですから」

「そっか。じゃあ、ちょっと待っててよ。もう暗いし送っていくから。俺ももうすぐ終わるし」

「え。いいですよ」

そう言って首を横に振る。

今回は2回振ったところでハタと気が付いたように辞めた。

「うん、それくらいでやめたほうがいいよ」

神も笑いを含んだ声で賛成する。

「本当にすぐに終わるから」

そう言って一度コートにボールを弾ませてジャンプシュートを決める。

パチパチパチと拍手が聞こえて振り返るとが目を輝かせて只管手を叩いている。

「え、普通のシュートでしょう?」

「いいえ。凄いです。そんな遠くから入るんですよ。しかも、凄くフォームも綺麗だったから。やっぱり神先輩は凄いですね!」

惜しみない賛辞を贈る。

他の者が言ったら厭味に聞こえるくらいのことでも、が言えば本当にそうなのかな?と思ってしまうくらいまっすぐ言葉を口にする。

「...ありがとう」

神も悪い気がしない。

そのまま神のシュートをは部誌を書く手を止めて見入っていた。

結局部誌が書けないまま神の練習が終了する。

「結局、部誌を書いてないね」

シュート練習が終わったのを悟ったが側に置いてあった神のタオルを持っていくとそう言われた。

「え、あ...」

すっかり忘れていたようでは頭を掻いている。

「なんてね。大丈夫。俺待ってるから。ゆっくり書きなよ。着替えてくるしさ」

そう言ってタオルを肩に掛けてボールを拾い始める。

も慌ててボールを拾いに行く。

「ああ、いいよ。ちゃんはボール籠のところにいて。俺、拾ったの投げるからそれを入れてよ」

そう言われた。

「はい!」

新たな使命を授かったは言われたとおり、神が投げるボールを受けて籠の中に入れていった。

モップを一緒に掛けて本日の練習が終了する。

「じゃあ、ここで待っててね。俺着替えてくるから」

そう言って神は体育館を後にした。

は急いで部誌を書こうとしたが、先ほどの神のシュートが頭から離れない。

「私も、シュートしたかったな...」

思わず口に出た言葉に驚き、慌てて口を噤む。

頭に浮かんで離れない神の姿を何とか封印して部誌を書き終わったところに神が戻ってきた。

「書けた?」

「はい。今、丁度書き終わりました」

「じゃあ、帰ろうか」

「え、ホントいいですよ。だって、神先輩は自転車でしょう?」

「うん。ちゃんは?」

「電車です。だからいいですよ」

そう言って手を振る。

「じゃあ、後ろに乗る?荷台は無いけど、立ってなら乗れるし。あ、スカートが絡まるかな?ジャージに着替えておいでよ」

「え、いや。重いですよ!」

「...そうは見えないよ?いいから、着替えておいで」

強引に話を進められては女子更衣室へと向かった。

下だけ穿きかえるもの変だから、結局先ほどまで部活をしていた格好へと戻る。着替えを持ってきていて良かったと心から思った。


「よし、じゃあ帰ろうか」

の荷物を自転車のカゴに載せ、自分の荷物も何とか持つ。

「しっかり掴まってなよ」

そう言って神がペダルを踏んだ。


背後で笑った気配がした。

「どうしたの?何か楽しい看板があった?」

神が声を掛けると

「いいえ。この状態でも神先輩の方が背がちょっと高いみたいです。でも、神先輩の頭が見えるって凄く変な感じです」

「そっか」

の言葉に神も笑った。









桜風
07.5.14


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