恋すてふ 9






結局、神は自分の自転車に荷台を付けた。

あって邪魔になるでもないし、あった方が便利だろうし。

「おはようございます」

不意に声をかけられた。

「あ。ちゃん。おはよう」

そう挨拶を返して思わず時計を見る。

「あれ、ちゃんは朝練に出てないよね?」

「はい。マネージャーは朝練には出なくていいって監督も牧先輩も仰ってましたから。出た方がいいですか?」

「あ、いや。そう言うんじゃなくて。だって、朝早いから...」

「ああ。電車が込む前に来るようにしてるんです。朝のラッシュに掛かっちゃったら電車降りられないかもしれないので」

そんなことを言う。

「そっか。じゃあ、いつもこんなに早いの?」

「いつもはもう1本遅い電車ですけど。今日は早く用意が出来たので、いつもより早いんです。神先輩はこれから朝練ですか?」

「うん、朝練。じゃあ、また放課後にね」

「はい。頑張ってください」

礼をしてが去っていく。


IH予選を間近に控えていることもあって、練習がいつもよりも厳しくなり、終わる時間も遅くなる。

ってリスみたいですよね」

休憩時間に清田がそう言う。

ちゃん?」

「そうです。なんか小さいのがちょこまか動いてるじゃないですか。小動物系だなって思うんですよね」

今も休憩に入った皆にタオルやドリンクを配って忙しそうに走り回っている。

ー。俺にもドリンクくれー!!」

手を振って清田がを呼ぶ。

「はーい!」

そう言ってドリンクを2本持ってきた。

1本は清田に。そしてもう1本は神に渡す。

「ありがとう」

声を掛けて受け取った。

別のところからの名前を呼ぶ声がする。

「はい!」

と返事をしてそちらに駆けて行った。

ちゃん、忙しそうだね」

「そうっスね...」


練習が終わって居残りでシュート練習をしていると体育館のドアが開いた。

「神先輩。お疲れ様です」

予想通りだった。

部員たちの練習量が増えればマネージャーの仕事も自ずと増えてくる。

「うん、ちゃんもお疲れ。終わったの?」

「一応。ドリンクのケースとか洗ったものが乾くまで少し待ってないといけないんですけど...」

そう言って笑う。

少し、疲れた顔をしている。

ちゃん、今日送ってあげるからね」

「い、いえ!大丈夫です!!」

「いいから。自転車に荷台をつけたんだよ。この間よりも楽に乗って帰れるよ」

そう言って笑う。

一瞬、自分のために荷台を付けたのかと思ったが、そんなことはありえないとその考えを打ち消した。

「でも、もう少し残ってるつもりですから」

そう言うと

「あ、良かった。俺もまだ後半分残ってるんだ。あと247本」

「じゃあ、ボール拾います」

「助かるよ。けど、部誌は?」

「さっき書きましたから」

そう言ってはゴール下に散らばっているボールを回収していく。



神のシュート練習が終了し、もドリンクのケース等を片付ける。

「着替えてくる?」

これだけ遅いとジャージでも構わないだろうということだろうが、何となく、

「着替えてきてもいいですか?」

と言った。

「うん、いいよ。じゃあ、駐輪場で待ってるから」

そう言って神が先に駐輪場へと向かう。


制服に着替えて駐輪場に向かうと神が何かをしている。

「神先輩?」

「ああ、これで座っても痛くないよ」

そう言う。

見るとタオルが荷台においてある。ずれたりしないように紐で縛ってあるようだ。

「え、これ...」

「大丈夫。使ってないタオルだから綺麗だよ」

「いや、そうじゃなくて」

「だって、お尻が痛くなるかもしれないから。ほら、荷物貸して」

そう言って神はの荷物を取り上げてカゴに入れる。駐輪場から自転車を出してサドルに座る。

「乗って」

振り返って声を掛けた。

「お邪魔します」

そう声を掛けてがおずおずと座る。

そして、神の制服を少しだけ掴んだ。

「それじゃ危ないよ」

と言って神はの腕を自身の体に回させる。

「しっかり掴まってなよ」

そう言ってペダルを強く踏んだ。

は俯いていた。

今が夜でよかった...

顔の異常なまでに高い熱を感じながらそう思った。









桜風
07.5.17


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