| 部室から体育館へ向かう途中にを見かけた。 「ちゃん」 「あ。神先輩」 「今から体育館だよね?一緒に行こう」 「はい」 と並び、話をする。 身長差が有るため、話をして時々聞きにくいときもあるけど、と話をするのは楽しいし、心が休まる。 「あ、そうそう。丁度良かったんだ」 そう言って神がタオルの中から小さなケースを取り出した。 体育館に持って行くつもりでタオルにくるんでいたものだ。 「何ですか、それ」 「ん?ハンドクリームだって。俺、姉さんが居るんだけど、姉さんが凄く良いって絶賛してて。試供品があるって言ったから貰ってきたんだ。ちゃんにあげるよ」 そう言って渡す。 「え?!」 「水仕事が多いからさ。使ってよ」 そう言って差し出す。 受けとったは自分の掌を眺める。確かに、指先が荒れ放題だ。可愛くない。 思わず溜息を零す。 「え、イヤだった?」 神は自分のしたことが余計なお世話に思われたのかと慌てる。 「い、いいえ。ありがとうございます。今改めて自分の指先の荒れように何だか寂しさを覚えただけです」 「そうだよね。マネージャー辞める子達の理由に手荒れとかもあるらしいからね」 神もしみじみと言う。 確かに、好きな人と手を繋ぐのにこんな荒れ放題の指先のままで繋ぎたくない。 そう思ってはこっそり隣に並ぶ神の手を見る。 きれいだなー... 「何か、それって通販でしか売ってないらしくて。気に入ったら言ってよ。俺が姉さんに頼んであげるから」 突然声を掛けられて顔を上げる。 「ホラ、肌に合わないもの使うのは良くないだろう?だから、合うようだったら言ってね」 「ありがとうございます」 取り敢えず、これ以上の指荒れはなんとしても避けたいものだ... 「神先輩!」 数日後、が声を掛けてきた。声が弾んでいる。 「ん?」 「あのハンドクリーム。凄いですよ!」 そう言って神に向けて手を広げる。 「ああ、本当だね。綺麗になってる」 「ですよね!ビックリしちゃいました」 「じゃあ、姉さんに頼んでおくね」 「お願いします」 嬉しそうに肌荒れ改善の報告をしてきたに目を細める。本当に嬉しそうだ。 海南大附属高校のIH予選が始まった。 危なげなく、緒戦を下す。 試合後は一度学校に帰っての解散となる。 試合中に使ったタオルとかその他の片付けでは学校に残った。 部員たちは自主練になっている。 洗濯機の中の渦をボーっと眺めていると肩を叩かれた。 振り返るとふに、と頬に指が刺さる。 「引っ掛かるなんて...」 自分でそんなことをしておきながら、引っ掛かったを笑っているのは神だ。 「神先輩。緒戦突破ですね。次から大変ですね」 笑っている神を気にせずにそう声を掛けた。 「うん、大変だけど。優勝するのはウチだから」 そう言って自信満々に微笑む。 「そうですね。私、何も出来ませんけど、頑張ります!」 「何を言うかなー。ちゃんがいるから1年だって練習に励めてるんだよ」 「でも、それがマネージャーですよ」 そう当たり前のように言う。 「そっか。そうそう、ほっぺを突きに来たんじゃなかった。これ、届いたよ」 そう言って先日注文したハンドクリームを渡す。 「あ、ありがとうございます。お財布取ってきますね」 そう言って洗濯機の側を離れようとしたの腕を掴む。 「いいよ。あげるから」 「そういうわけにはいきませんよ」 「いいの。ほら、その肌荒れの原因ってソレだし」 と言って洗濯機を指差す。 「ね?」 優しくそう諭そうとする神だったが、 「じゃあ、何か。別の形でお礼をさせてください」 とは食い下がる。 「別の形?」 「はい!」 目が真剣で簡単にはぐらかすことは出来そうにない。 ちょっと考えて神はポン、と手を叩く。 「じゃあ、デートしよう」 「で、デート!?」 驚きのあまり声が裏返ってしまった。 「うん、デート。この予選が終わったら1日くらい部活が休みの日があると思うんだよね。まあ、下手したらテスト期間中になるけど。俺、見たい映画が有るんだけど一人で行くのも何だか寂しいなーって思ってたから」 頭の後ろで手を組んでそう言う。 「でも、それなら清田君とか...」 「俺が見たいのはヒューマン系だからね。信長には退屈なものだよ。もしかしてちゃんもヒューマン苦手?」 そう聞くと首を振る。最近は振りすぎることが無いので少々物足りないと少しだけ思う。 少しだけ。 「じゃあ、いいんだね?」 「はい。...でも、神先輩こそそんなので良いんですか?」 「うん、いいよ。元々お礼とか貰う予定がなかったし。十分だよ」 何でもないようにそう言う。 「そう、ですか...」 「うん。まあ、その前に神奈川大会優勝しないとね。優勝後の楽しみがあるから頑張れるなー」 そう言いながら神が去って行く。 「私、とんでもない約束しちゃったのかも...」 今更ながら、はこの事態に青くなった。 |
桜風
07.5.21
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