| 予選リーグで1勝を上げた翌日、神が廊下を歩いていると上の方から声がした。 見上げると階段の上でバランスを崩してしまったのか、が駆け下りてくる。下手に力を入れて止めれば足を挫くかもしれないため、取り敢えず重力に任せて降りているのだろう。 しかし、運悪く神がその目の前を通りかかったのだ。 「避けてください、神先輩!!」 咄嗟に神はを受け止めたが、バランスを崩してしまいそのままを受け止めた拍子にこけてしまうというカッコ悪い姿を晒してしまう。 「いっ...ちゃん?」 目を明けると、目の前にはの大きな目がある。 さっき、唇が何か柔らかいものに触れたような... そんなことを思っていると、目の前のの瞳が一瞬にして遠ざかる。 「ご、ごめんなさい!」 口元に手を当ててそう言ったは真っ赤になって走っていった。 神も体を起こして唇に左手を当てて右手で頭を抱える。 うわぁ... 何ともいえない今の状況を何とか冷静に受け止めようとしていた。 バタバタと近付いてくる足音に顔を上げる。 真っ赤な顔のが膝をついて神の顔を覗きこむ。 「神先輩、どこか痛いんですか?怪我しちゃいましたか!?」 泣きそうな顔でそんなことを聞いてくる。 「ああ、大丈夫。うん、大丈夫だよ。ちゃんは怪我なかった?ごめんね、受け止めたのにこけちゃって」 はははと笑う神をまだ心配そうに見つめるがいた。 神は立ち上がり、その場で何回か軽くジャンプをする。 「ね?大丈夫そうでしょう?」 「はい。良かったです...」 あんなに真っ赤になって走っていったのに、は神のことを心配して戻ってきたのだ。 「うん、良かった。ちゃんにも怪我はなさそうだしね」 そう言って微笑む神を見上げたの顔はまたしても真っ赤になって、居た堪れなくなったのか走り去っていった。 そんなの背中を見送りながら「あーあ」と神は呟いた。口元には笑みを浮かべている。 神奈川の地区大会が終了した翌日に、ある人の教室を訪ねた。 「先輩」 の姉のだ。 神の声に気付いたは教室の入り口までやって来た。 「あら、神君。あたしに何か挑戦状でも叩きつけに来たの?」 何故そうなる... 一瞬神は半眼になったが、あながち間違ってもいない。 「先輩の妹さん。ちゃんを口説かせてもらいます。それを言っておきたくて」 そう宣言した。 数秒の間があって、 「ふぅん...」 と言いながら口角を上げて目を眇める。 「このあたしによく言ったわね。少しだけ褒めてあげましょう。まあ、精々頑張りなさい」 そう言う。 「あれ?反対とかすると思ったんですけど。『あたしの可愛いに〜』って」 あまりにもあっさりした反応に神は肩透かしを食らった気分だ。 しかし、は 「ああ、を泣かしたら、神君を再起不能にするだけだから。それくらいの覚悟があってを口説くんでしょう?」 満面の笑みでそう言う。 神は知っている。 が中学に上がったとき、一方的に生徒にレッテルを貼るムカツク男性教師が居て、その教師を口論で打ちのめして泣かしたらしい。 先輩が自分の武勇伝のように語っていた。 運動神経がゼロでも、口が立つし頭の回転が非常に速い。 「敵に回したくないタイプだ」とを知る者はみんな口を揃えてそう言う。 「はい」 何処か挑発的な笑顔を浮かべて神は頷いた。 「ナマイキね」 笑いながらそう言っては教室の中に戻って行った。 |
桜風
07.5.22
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