| 駐輪場に自転車を停めて職員室に向かう。 「毎日がんばるな」と声を掛けながらテストの準備のために学校に来ていた教師が鍵を貸してくれた。 神の成績は上位に入っているので、教師も簡単に鍵を貸してくれる。 体育館へと向かう途中、神がに鍵を渡した。 「俺、着替えてくるから先に行ってて」 と言って部室へと向かう。 は預かった鍵で体育館を開けた。 「お願いします」と礼をして体育館へと足を踏み入れる。 バスケ部の体育館の造りは普通の体育館と変わらない。 元は学校行事で使っていたのだが、新しい体育館を建てたため、この古い体育館はバスケ部に寄贈されたらしい。 だから、この体育館の中には壇があるし、その袖にはカーテンもある。 はその裾に隠れて服を着替えてバッシュを履く。 久しぶりにバスケをする格好になって何だか楽しい気分になった。 用品庫からバスケットボールの入った籠を取り出していると 「ちゃん、俺がするからいいよ」 と神が声を掛けてくる。 「やらせてください」 がそう言うものだから、神は強く言わない。 「お願いします」と礼をして体育館へ入ってバッシュを履く。 「あれ、着替えたの?」 はハーフパンツとTシャツといういでたちになっていた。 「はい。バッシュを履くならちょっとボールに触りたかったので」 そう言うの返事に「そっか」と神も納得した。 ストレッチをしていると神が驚いた声を出す。 「柔らかいねー、ちゃん」 「はい。バスケ部を3年間続けて成果が出たのが唯一これです」 そう言って開脚してぺたりと床に胸を着けた。 「すご...」神は驚いて小さく呟く。 その後、軽くアップをして神のシュート練習が始まった。 ボールを拾って神の練習の手伝いをしながらは神に何度も見惚れていた。 やっぱり、いいなー... シュートをするたびにたの赤いリングの中にボールが吸い込まれていくように入っていく。 250本シュートを打ったところで、神が手を止める。 「どうぞ」 振り返れば、ドリンクを買ってきたが立っていた。 「うん、ありがとう」 そういえば、さっきから姿が見えなかったなと思った。 タオルで汗を拭きながらを見下ろすと缶ジュースのプルタブを開けるのに手間取っていた。 「貸して」と言ってあけてやる。 「ありがとうございます」 礼を言って受け取り口をつける。 「ちゃんもやってみる?」 そう言うと、の動きが止まった。 「え、前も言いましたけど。全然上達しなかったんですよ?」 「うん、俺が教えてあげるよ」 時々神の言葉は、何だか有無を言わせない感じを醸し出している。 「いいから、シュートしてみてよ」 言われてコートに一度ボールをつく。 そして、リングを見上げてボールを放つ。 掠りもしないでボールはリングの下を通過した。 「ねえ、誰かに指導してもらえた?先生とか、先輩とか」 神が聞くとがゆるゆると首を振る。 「誰にも?」 「はい。私、小さかったので」 フォームがでたらめだ。肘や膝の使い方がおかしい。だから、力がまっすぐボールに伝わらなくてリングに掠りもしない。 それが出来ればリングに届くくらいにはなっただろうに... 昔の女バスの顧問を思い浮かべた。 自然と眉間に皺が寄る。 「ごめんなさい、神先輩。私、下手で...」 神の険しい表情が自分の下手さ加減に呆れてのものだと勘違いしたがしょんぼりと謝る。 「違う違う。ちゃんじゃないから。でも、今のを見たら何処が悪かったか分かったから、ちょっとやってみてごらん」 そう言ってフォームを修正する。 「窮屈です...」 「そんなもんだよ。このフォームだったら力が素直にボールに伝わるから。シュートしてごらん」 言われてシュートするとボールがリングに当たって跳ね返ってくる。 「当たりました!」 凄く嬉しそうに振り返るに苦笑する神。 「うん、見てたよ。だから、たぶんちゃんもしっかり指導してもらえたら、もっと上手くなってたかもね」 そんなことを言う。 「でも、私がバスケが上手になってたら、マネージャーをやってないかもしれませんよ。だから、きっと下手なままで良かったんですよ」 満面の笑みでがそう言う。 「そっか。そうだね」 答える神も微笑んでいた。 そろそろ練習再開というコトで、神のシューティングが始まる。 神がシュートを打っている反対側で、時々ボールが弾む音がする。 きっとがシュート練習しているんだろうなと思いながら笑みを浮かべてボールを放っていた。 500本のシュートを終えて本日の神の日課が終了した。 片づけを済ませて駐輪場へと向かう。 「そういえば、ちゃん」 神が声を掛ける。 「はい?」 「生徒手帳に写真を挟んでた好きな人とはどうなったの?」 突然の神の問いに、の足が止まって暫し神を見上げていたが、 「い、いや。何と言いますか...全然です...」 頭を掻きながらそう言う。 「ということは、まだ好きなんだよね?」 神に問われてコクリと頷く。 「ねえ、どんな人?」 「な、何でそんなに聞くんですか?」 慌てながらがそう言う。 「だって、知りたいから」 まっすぐの目を見てそう言う。 「何か、別世界の人です。きっと大変なことをしているはずなのに全然大変そうじゃないし、とても優しい人です。私の話を辛抱強く聞いてくれますし、いつもまっすぐな眼をしていて、それが凄く羨ましいと言うか、憧れると言うか...うー、上手く言えません」 「そっか。ちゃんは、本当にその人が好きなんだね」 そう言うと神は背中を向けて駐輪場へと向かった。 置いていかれたは少し寂しそうな笑みを神の背中に向けて、そして気を取り直したように走り出した。 |
桜風
07.5.25
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