| 洗濯その他諸々の雑事を終えた時刻には流石に日もすっかり落ちていた。 体育館に戻ると、神がまだ居た。体育館のど真ん中に方膝を立てて座っている。 その膝の上に腕を乗せてその上に顎が乗っている。目線はただ1点を瞬きすることなく見つめていた。 「あれ、神先輩。500本まだ終わってなかったんですか?」 「...終わったよ。ちゃんを待ってたんだ」 「え、私ですか!?」 何をやらかしたんだろう、と少しだけ慌てる。 「一緒に帰ろう」 微笑んでそう言う神の笑顔に違和感を感じる。 どこがどう違うのかと聞かれたら説明しがたいが、何と言うか、空気...? 「あ、着替えてきます」 「ここで待ってるから」 神はそう言って手をヒラヒラと振った。 いつもだったら駐輪場での待ち合わせなのに... 首を傾げながらは女子更衣室へと走っていった。 急いで戻ってくると神は制服に着替えていて、やっぱり体育館のど真ん中に座っていた。 「神先輩」 「うん、帰ろうか」 体育館の戸締りを確認して鍵を掛ける。 廊下を歩いていると窓を雨粒が微かに叩き始める。 「あ、雨です」 「うん。通り雨だろうけどね」 そう言って靴箱へと歩いていく。 やはり先ほどから神の様子が変だ。段々は不安になってきた。 靴を履き替えた神は下足場の外に出てその入り口のドアに寄り掛かる。 もその横に立って少し空の様子を覗き込むように見ていた。 そんなの様子を見て神は眼を細め、 「ねえ、ちゃん。好きだよ」 唐突に、何の前振りもなくそう言った。 神自身こんなに素直に言葉が出るとは思わなかった。内心驚いていたが、を見てみると、自分と同じように驚いたようで、大きな目を更に大きくして自分を見上げていた。 が見上げた神はやはり優しい笑みを浮かべてを見つめていた。 「あ、あの。神先輩。『好き』って...」 「うん、言ったよ」 はっきり肯定されてが混乱する、座ったり立ち上がったりその場をくるくる回ったりを数回繰り返して、 「それは、親愛の情というか...」 と聞けば 「女の子として好きだって意味なんだけどな」 さらりと神が言う。 神は、先輩の言ったとおりだ...と思っていた。 すっきりした。 ずっと自分の気持ちを抑えているよりも何倍も良い。 「わ、私も」 消え入りそうな声が俯いたの口から漏れる。 「私も、神先輩のこと好きです」 今度は神が驚く番だ。目を瞠ってを見下ろしている。 「好きです、神先輩」 顔を上げて、神の目を見てそう言った。 「うわぁ...」と言って神はガラスに凭れたままズルズルと体を崩していく。 は全部知っていて自分を焚きつけたんだ。 そう思うとなんだか悔しい。 けど、それ以上にさっきのの言葉が嬉しくて頭の中で何度も繰り返されている。 「でも、ちゃん。生徒手帳の...」と言って思い出した。 の想い人は此処の学校の2年。 あの時軽く聞き流していたけど、去年林間学校だったら自分の学年だ。 そして、中学でも知ってる人物。神の学年にも同じ中学の出身者は意外と少ない。 「もしかして、俺だったの?」 「はい」 真っ赤な顔をしたが笑いながら頷いた。 「そっかー」そう言って笑う。 以前、が凄く優しい目をして語っていた『好きな人』が自分だと分かるとあの言葉が嬉しくなってくる。 「私が、海南大附属高校に来たかったのは。神先輩が居るからです」 もうひとつの理由も教えてもらえた。 「ねえ、キスしてもいい?」 優しく問う神に、微笑んで頷く。 2人の唇が重なる。 気がつくと、雨も上がっていた。 「...帰ろうか」 「はい!」 神の左手がの右手を取って歩き出す。 雲の切れ間から月が見えていた。 「まったく。このヘタレの何処がいいのかねー」 廊下で擦れ違ったが神に聞こえるようにそう言った。 「もうヘタレは返上しますよ、お姉ちゃん」 「神君に『お姉ちゃん』なんて言われると、悪寒が走るからやめてくれる?キミみたいなヒョロヒョロな子、弟に欲しくないわー」 「俺も先輩をそう呼ぶのにかなりの抵抗がありますけど。ちゃんのお姉さんという事実はどうやったって消えそうにないので我慢してあげます」 「あら、それはどうもアリガトー。精々あたしのを大切にすることね」 「先輩に言われるまでもなく、俺のちゃんは大切にしますよ」 飽くまでも爽やかな笑顔で言い合いをする2人に、側を通る者は薄ら寒いものを感じていた。 |
桜風
07.5.29
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